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〈本の紹介〉 随筆集 重き黒髪

「夫や息子を再び奪われぬために」

 本書は朝鮮人強制連行の記録「遺骨は叫ぶ」を本紙文化欄に連載中の作家・野添憲治さんによる随筆集。

 近年、「みちのく・民の語り」(全6巻、社会評論社)、「シリーズ花岡事件の人たち−中国人強制連行の記録」(全4巻、同)を上梓した野添さん。花岡事件をはじめ中国人や朝鮮人の強制連行の聞き書きを約40年も続けてきた。その仕事は過去を抹消し、隠ぺい、忘却しようとする日本社会と格闘する厳しい歳月だった。この随筆集にも著者の思いと問題意識が鮮明に脈打っている。

 ある春先に、著者は知人の車でふるさとの山へ山菜採りに行った折に、冷たい雨を避けるために偶然、山道沿いの神社を訪れた。傾きかけた神社の隙に、女たちの黒髪が吊るされているのを見かける。アジア・太平洋戦争の時に、夫や息子を兵士にとられた女たちが、無事に生還することを願って供えたものだという。

 「お国のために死んで参ります」と言って出征した兵士たちを「万歳、万歳」の歓呼で送り出した女たち。実は陰では生きて帰ってくるよう必死で祈り続けたのだ。

 侵略戦争に駆り出され、運命を暗転させた人々の災難と苦しみが伝わってくる話である。著者は女たちが「黒髪を切らなくてもいい世の中」になるよう願いながら、本書のタイトルをつけたという。(野添憲治著、能代文化出版社、1700円+税、TEL 0185・52・7550)(粉)

[朝鮮新報 2009.6.12]