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〈朝鮮と日本の詩人-93-〉 井上光晴

「昨夜も黒人兵が射殺された」

 血痕(ちのり)のあとはまだ消えない/昨夜も黒人兵が射殺された

 ふつ、ふつ、ふつ、ふつ/ふつ、ふつ、ふつ、ふつ/コンクリートの声をあげて/彼はたえまなく打っているが/汽笛ひとつ鳴らさずに/この港からは毎日/二隻ずつ輸送船がコ―リアにむけて/出て行く

 腹部に二発、肩に一発/まだぴくぴく動いている死骸を/ジープは一瞬のうちに/運んでいったが/彼等は脱しない方が/よかったのだ/いくら戦争がきらいでも/同僚たちとともに/なんにもいわずに玄界灘を/渡ったほうがよかったのだ/そうすれば、あるいは/そんな無残なめにあわずに/すんだろう

 血痕のあとはまだ消えず/この街の昼は夜よりも悲しい/だけどまだ逃亡兵をかくまう/バラックさえ/そのバラックの抵抗さえ/芽生えてはいないのだ

 白いひらひらみえるのは/一晩だけのジャパニーズの恋人の/振るハンカチ/朝鮮(コーリア)え、朝鮮(コーリア)え/死にたくない涙をいっぱいうかべて/黒い貨物船は今日もでていく

 「黒い港」の全文である。天皇制、被差別部落、原爆、朝鮮などをテーマにした作品の多い作家光晴が、詩を書いていたことはあまり知られていない。

 だが、彼がすぐれた詩人であることは右の詩でよくわかる。朝鮮戦争で、白人兵と差別されて犬死した黒人兵が何万もいたし、脱走して、裁判もなく射殺された黒人兵がかなりの数にのぼっていたことを暗示している。

 政治的主題の詩は往々にして硬質な性格をおびるものであるが、この詩は黒人兵の悲しみの情が行間に滲んでいてそれをやわらげている。米軍の侵略的本性を人種差別の偏見からえぐり出した作品として心に残る。

 彼には朝鮮戦争を米軍糾弾のモチーフで描いた散文詩「荒廃の夏」「死体の実験」他もある。

 また、朝鮮問題をテーマにした小説「長靴島」「坑木置場」などの傑作を発表している。(卞宰洙 文芸評論家)

[朝鮮新報 2009.6.1]