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〈本の紹介〉 米原万里を語る

人間の中にある小さな輝き

 ロシア語の同時通訳者としても一流の仕事をやり遂げ、作家として、エッセイストとしても目を見張る活躍を遂げつつあった米原万里さんが死去して早3年になる。

 本書は多様な意見、生き方が影をひそめつつある日本の中で、見事に自分を生きた米原さんの心温まる追悼集。

 米原さんは共産党員で衆議院議員の米原昶氏を父に持ち、1959〜64年まで、チェコ・プラハのソビエト学校に学んだ。その稀な体験から生まれた複眼的な視野と鋭い批判精神、ロシアやチェコ、中央ヨーロッパあたりの歴史と文化についてのぼう大な知識。後の多岐にわたるユニークな活動がここから育まれたといっても過言ではないだろう。「オリガ・モリソヴナの反語法」など著書が多数。

 義弟にあたる作家・井上ひさしさんは、エッセイストとしての米原さんを「真実に対して誠実で、正義に対して率直で、力あるものに対して辛辣で、そのうえ、めちゃくちゃにおもしろいこと。この四つを完備したエッセイストは、なかなかいない」と高く評価する。

 また、ノンフィクション作家の吉岡忍氏は、イラク戦争の直後、日本ペンクラブ理事として、単行本「それでもわたしは戦争に反対します」(日本ペンクラブ編)の刊行に尽力した。

 その際、米原さんは「バグダッドの靴磨き」というタイトルで短編小説を寄せ、文学者としてイラク戦争反対の意志を明確に示した。

 この小説の最後は、テロリストにならざるをえない少年の「侵略者、占領した者は殺す」という言葉で締めくくられている。

 吉岡氏はこの作品について「短い小説ですが、戦争、侵略というざらついた現実に生きている家族の姿と、少年の切羽詰った気持ちを鮮やかに描いた小説になっています」と評価している。

 米原さんはその生涯を通じて、歴史に翻弄されながら、必死に、ひたむきに生き、生き延びようとする人間のなかにある小さな輝きを描き続けた。多くの読者もそこに共感し、勇気づけられたのだと思う。(井上ユリ、小森陽一編著、かもがわ出版、1500円+税、TEL 075・432・2868)(粉)

[朝鮮新報 2009.5.29]