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〈本の紹介〉 시조 時調四四三首選

25年の歳月と情熱込め

 植民地時代の朝鮮に生まれ育ち、敗戦直前まで教師をしていたという著者。ハングルとの出会いは日本敗戦の翌日、45年8月16日の昼間、一人で近所を散歩していたときのことだ。こう述懐する。

 「途中で壁に掲示してある貼り紙が目にとまりました。

 見たことのない解らぬ記号を、たくさん書き並べていました。何だろうと好奇心が手伝って近づき、じっと見つめました。

 この記号はもしや、この朝鮮の国の文字ではないだろうか。さらにじっと見つめました。そうだ、これはこの国の文字に違いない。この国には、この国の文字があったのか……。知らなかった……。知らなかった……。

 それを知らずに私は、子どもたちに日本語を教えてきて、取り返しのつかない、何て悪い、罪なことをしてきたのか……」

 そんな出会いの直後、釜山港から引き揚げ船に乗って日本に帰ったのが18歳のとき。やがて結婚して、短歌を趣味にしていた瀬尾さんは、45歳のときにハングルを学び、朝鮮固有の定型詩、時調の研究に入った。それから25年かけて完成させたのが本書である。

 古時調の遺産は約4500首にのぼるというが、本書にはその約1割を抜粋して、注釈・翻訳・解説を加えている。時調作品の古語を解釈し、故事熟語の意を明らかにするのは容易なことではない。まさに四半世紀にわたって、注ぎ続けた情熱と「良心に恥じないものを」との一念が込められた一冊。(瀬尾文子著、育英出版社、TEL 052・751・1788、3619円+税)(粉)

[朝鮮新報 2009.5.26]