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〈朝鮮と日本の詩人-92-〉 瀬木真一

母国語は反抗の武器

 親方にどなられると
 スコップをほおり投げ
 仕事をやめて
 朝鮮人たちは一カ所にかたまる
 そして
 母国の言葉でさかんにしゃべり出す
 きっと不平を言いあっているのだろう

 トラックからざあざあとこぼれる砂利
 吐き出されるかたいはげしい一語一語
 みているぼくの胸にこみあげる感動

 ああ
 ぼくも人にわからぬ言葉で話したいものだ

 右の引用は、11編からなる連作詩「子供の情景」のうちの第5編の全文である。11編のすべてに題名がつけられていないので、この詩も無題ということになろうか。

 土木工事の現場で働く朝鮮人労働者の姿を映し出した詩である。

 詩人が詩誌「列島」に作品を発表しはじめたのは1952年前後のころだから、描かれているのは日本敗戦後の人たちである。解放後も日本人の現場監督に酷使される状況が、詩人の彼らへの親密感をもって描かれている。

 テーマをさぐれば、母国語を反抗の武器とする朝鮮人労働者のたくましさといえる。それは、「はきだされるかたいはげしい一語一語」の一行と、つぎの行の「―こみあげる感動」という詩句で読みとることができる。最終行は、朝鮮戦争を奇貨として軍国主義復活へと突き進む現実への批判の一行だと解釈できる。

 瀬木慎一は1928年に東京で生まれた。敗戦後から詩を書き始め「列島」誌の編集長をつとめ鋭利な政治詩を発表した。詩集に「夜から夜へ」「愁」「子供の情景」などがある。彼はまた、すぐれた美術評論家でもあり「絵画における人間の問題」「芸術の論理」などの批評文が多くあり、著書に「真贋の世界」他がある。(卞宰洙 文芸評論家)

[朝鮮新報 2009.5.26]