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〈食のはなし@〉 食の役割

生命維持、集団生活 独自の文化

 「食」の基本は「生命を維持する」ためであるが、種々の要素が絡み合う事で複雑になってきている。

 2007年、緊急に食糧援助が必要な国は39カ国に及び、約9億人以上が飢餓や栄養不足で苦しんでいる。一方、日本の食品廃棄物は年間2169万トンに達する。

肥満が気になりダイエットに精を出す人もいれば、食べ物が手に入らない人もいる。このアンバランスや矛盾が現実に存在する事を冷静に受け止め、改めて「食」の役割を3つにまとめ述べてみたい。

 1つ目は食品から栄養素を体に摂り入れることで、細胞を活性化し、代謝を円滑に行う生理的役割について。人間が生きるためには、動物や植物をはじめとする他の生き物の命をいただくことで可能となる。さらに人間は、単にエネルギー源として量や質を満たすだけではなく、味、香り、感触、温度等を楽しみ、健康を積極的に保持するためより良い食物を選択する。

 2つ目は人間社会の発展と組織化に食物が大きくかかわる社会的役割について。人類は集団的に狩猟をするかたわら植物を食料として採集し、その後家畜の飼育、農耕へと食糧生産と食生活の幅を広げていった。家族という小規模の集団や社会、経済が機能する媒体として、食物がなくてはならないものといえる。即ち食物が人間集団の組織化と、生活様式に大きな影響を及ぼすということである。

 3つ目は地方の文化の影響により、独特な食生活を形成する文化的役割について。

 世界各地にはそれぞれ特有の料理が昔から伝えられている。民族の伝統、宗教や気候風土等がその地方の食文化に大きく影響した。なかでも誰もが知っている朝鮮の食べもの「キムチ」は、朝鮮民族の知恵により創り出された傑作食品である。

 さて、「食」の役割を考えるうえでその根幹となるのは、栄養と健康に関する知識である。

 人間が社会で満足できる生活を送るためには、まず健康な体を維持する事が必要だ。そのため必要な栄養素に関する基本知識と、その栄養源となる食物成分、生体内での代謝ならびに生理機能について知っておくべきだと思う。

 例えば人間の体は、生命を維持するため内外環境の変化に順応する能力としてホメオスタシスをもっている。なかでも異物に対する防御能力としての免疫機構は正しい栄養状態の下で高く保たれる。

 また科学の発展と共に調理法、保存法の発達、加工食品の開発によって食物の性質が複雑に変化している。しかし、私たちの肉体構造と機能はあまり変化していないため、両者の間にギャップが生じ、食生活の近代化はさまざまな問題を生じさせている。その代表的な現象として生活習慣病がいい例であろう。

 このシリーズでは、読者のみなさんと共に「食」が持つ3つの役割について追求していきたいと思う。まずは様々な「食」について学びながら、「食学」の観点で物事を考え、実行するが大切な事ではないだろうか。(金貞淑、朝鮮大学校短期学部准教授、栄養学専攻)

[朝鮮新報 2009.5.15]