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〈本の紹介〉 大阪空襲訴訟を知っていますか

「泣き寝入りは絶対できない」

 2008年12月8日、大阪大空襲の被災者と遺族ら18人が、国に謝罪と一人あたり1100万円の損害賠償を求める集団訴訟を大阪地裁に起した。その日は、日本が無謀な太平洋戦争に突入して68年目の開戦記念日だった。空襲をめぐっては、東京大空襲の被災者らが07年3月、国に損害賠償と謝罪を求めて提訴しており、集団訴訟はこれで二例目だという。

 その意義や原告の思いをまとめたブックレット「大阪空襲訴訟を知っていますか−置き去りにされた民間の戦争被害者−」が出版された。

 著者は大阪空襲訴訟を支える会代表で、長年空襲被害を取材してきたミニコミ誌「うずみ火」代表の矢野宏さん(49)。このブックレットには、原告を代表して意見陳述した「戦災傷害者の会」代表世話人の一人、安野輝子さん(69)の話が紹介されている。

 「泣き寝入りは絶対にできない、戦争をこの世からなくすためにも、空襲を引き起こす原因をつくった国に謝罪をさせ、補償させなければならないと決意をさらに強くしました。金銭の問題だけではなく、裁判を通して国の責任を明確にすることは、生かされた私にできる最後の務めだと思っています」

 矢野さんは、このブックレットを通して、安野さんら原告18人の思いを知ってもらい、「命をかけたこの反戦運動≠ともに支えてほしい」と訴えている。

 ブックレットは4章で構成されている。第1章の「なぜ、いま提訴するのか」では、民間の戦災被害者への補償を盛り込んだ「戦時災害援護法」制定に向けた運動を紹介。旧軍人・軍属には戦傷病者戦没者遺族等援護法に基づく援護があり、民間人でも原爆被爆者などは立法措置によって一定程度救済されているが、民間の空襲被災者だけが援護の蚊帳の外に置かれている現状を分かりやすく解説した。さらに、日本の戦争補償制度が世界でも特異なもので、そのほとんどが国籍条項をもち、外国人を補償の対象外にしている点についても強調している。

 また、第2章「なぜ、空襲は起きたのか」、第3章「裁判で何を訴えるのか」に続き、第4章の「原告たちの訴え」では、身体に障害を負ったり、孤児になった原告たちの戦後の苦難の歩みが克明に綴られている。

 藤原まり子さん(63)は、大空襲で左足に大やけどを負い、中学2年の頃、足を切断した。「戦争さえなければ、自分の足で思いっきり走ることができたのに…。戦争の傷は今も深い。子どもや孫たちに同じ思いをさせたくないから」と国を提訴した理由をキッパリと語っている。

 矢野さんは、「うずみ火」代表、関西大学非常勤講師。ラジオ・テレビなどに出演して人権問題、時事問題などで幅広く発言している。「世の中を大上段からではなく、庶民の目でみつめ、ささやかな幸せを破壊する戦争や差別を憎み、闘っていきたい」と語る。(矢野宏著、せせらぎ出版、667円+税、TEL 06・6357・6916 )(朴日粉記者)

[朝鮮新報 2009.4.10]