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〈みんなの健康Q&A〉 家庭内暴力−夫から妻へ

 Q:今回は少し気の重い内容になりますが、決して他人事・特別なことではない「家庭内暴力」について、専門家の意見を聞かせてください。

 A:「家庭内暴力・虐待」と聞くとみなさんは、身体的・直接的な暴力をイメージされるのではないでしょうか。

 しかし、なかには直接的な暴力ではなく、「お前は生まれてこなければ良かった・お前は無価値だ」などと相手の存在を全否定するような、精神的に相手を追い詰める、言葉による暴力もあるのです。

 家庭内暴力・虐待を説明したら、複数回の掲載になってしまいますので、今回は代表的な二つのパターンに絞って説明したいと思います。

 Q:ドメスティック・バイオレンス(以下=DV)について教えてください。

 A:DVとは、「婚姻の事実にかかわりなく、親密な関係にあるパートナーからの暴力」のことを指します。ここでいう「暴力」の形はさまざまで、身体的、精神的、性的、経済的など、多面的な要素を含んでいます。

 もう一つは親から子どもへの暴力(虐待)です。

 Q:それでは大人の間でのDVを説明してください。

 A:「夫から〜・妻から〜」といずれからの虐待もありますが、多くの場合は夫から妻へのDVが多いようです。

 ちなみに私は今までの診察で、女性からのDVで男性から深刻な相談を受けたことはありません。それでは私が経験した症例を例に説明してみましょう。

 【症例Aの場合】Aさんは、夫とは3カ月あまりの交際でそれほど深く考えずに結婚をしました。

 交際当初から、彼の短気ですぐに怒る性格は気になっていたそうです。結婚して一人目の子どもを妊娠した頃から夫の暴力が始まりました。Aさんは、夫の暴言に反抗せず耐えていたのですが、言い返さないAさんに夫の態度は次第にエスカレートし、「掃除の仕方がなっていない、料理の味付けが薄い!」などと些細なことで殴ったり、蹴ったり、また髪の毛を持って引きずり回すなどの暴力をするようになりました。

 しまいにはテレビを見ている夫の前をAさんが横切り、ほんの一瞬、遮っただけでも腹を立て、暴力を振るうようになってしまいました。

 Q:夫に、「暴力を振るっている」という自覚はないのですか?

 A:Aさんの夫を含め、DVをする側には「ある共通な特徴」があります。それはほとんどの場合、「自分が悪いことをした」という自覚がない、ということです。

 夫の言い分は異口同音に「原因を作ったのは妻」であり、自分は「教育した」と思い込み、周囲の意見に耳を貸そうとはしません。

 暴力を振るったという自覚が乏しく、「ちょっと手が当たっただけ」「大袈裟だ」などと言って、事実を認めようとはしないのです。

 また、暴力を振るった後に急に大人しくなり、今までの暴力が嘘のように謝罪したりします。なかには泣いて謝る夫もいますし、さらには「お詫び」と称して自らを傷つける夫もいます。

 しかし、本当に悪いことをした、とは思ってはおらず、心の底から謝罪しないのも特徴です。

 Q:暴力を受けた妻が、夫から逃げるしか方法はないのですね?

 A:他人が聞くと「暴力を繰り返し振るわれるのが解っているのに、なぜ逃げなかったり、逃げてもまた戻ってきたりしてしまうのだろう?」と疑問を持たれるでしょう。

 その理由としては「夫に経済的に依存している。世間の目が気になる、恥ずかしい。親や親せきに迷惑をかけたくない。子どものために我慢しなくてはいけない。子どもから父親を奪ったら可哀想だ。夫への愛着、未練もある。夫もいつかは解ってくれる・改めてくれるという期待もある」と思われる被害者が大半のようです。

 それから長くDVを受けている被害者に変化が認められてきます。それは暴力に麻痺してしまうことです。言い方を変えると「麻痺しなければ日常が送れない」のでしょうから、これはある意味、必要な麻痺なのかも知れませんが。

 他人に相談しても「あなたにも改める点があるんじゃない?」とか、「好きで結婚したんでしょ?」「子どもがいるんだから…」「夫婦喧嘩は犬も食わないって言うし…」などと言われ、誰にも理解してもらえない辛さを一人で抱え続けてしまう人も多くいるようです。

 一番の良き理解者である親に相談したら「自分たちの問題は自分たちで解決しなさい」と話を最後まで聞いてもらえない人も、中にはいます。

 しかしDVはほとんどの場合、当事者間では解決しないのが特徴です。このような状態から脱するには、まず自分が虐待を受けているのかどうかに気づくことから始まります。

 Q:被害にあった場合はどうすれば良いのですか?

 A:最も良い方法は、やはり専門家(精神科医・カウンセラーなど)に相談することです。

 その状況をどう判断したらよいかすらわからなくなることも珍しくありませんから、相談のきっかけにメンタルクリニックなどの医療機関に相談するのも良いのではないでしょうか。

 客観的にDVが疑われたら、周り(行政を含む)の力を借り、配偶者が知らない場所に避難しましょう。 緊急を要する時は、地方公共団体や民間保護施設が運営するシェルターなどの避難場所を利用しても良いでしょう。シェルターの場所は、その性質上、非公開とされており、たいていは無料です。地域の「女性センター」または「男女共同参画センター」に行き、女性の相談員に相談すると良いでしょう(参考ホームページhttp://www.gender.go.jp/e-vaw/advice/advice06list.html)。

 Q:実際に、いざ行動を起こそうと決心しても、金銭的なことなど不安が大きいですね。

 A:当座のお金や働き口、住まい、子どもの学校などをどうしていいかわからない、相談・頼る人がいないと言うのが現状でしょう。場合によっては、頼れる場所がない時には、母子寮・母子生活支援センターに避難することになります。

 数年前に「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」が成立し、健康保険・学校の転校などは、DV被害者のために特別の配慮がされています。

 夫が執拗に追ってくるようなら弁護士に相談し、保護命令を出してもらいましょう。これは加害者が被害者に近づいたり、連絡を取ったりしてはならないという命令で、これに違反すれば刑事制裁があります。弁護士費用の捻出が困難なら、市役所で弁護士による無料相談を設けていますので利用しても良いでしょう。

 夫との関係修復が困難であれば、離婚手続き、生活費の請求(婚姻費用)を弁護士に頼んで進める事が必要です。

 加害者から隠れて避難したり、幼い子どもを抱えたりしていると、仕事をするには限度があります。こういう時には、生活保護を申請し、利用しても良いでしょう。前述しましたが、DVは当事者間だけではほとんどの場合、解決しないのが特徴です。どうか第三者を交えて相談するようにしてください。

(駒沢メンタルクリニック 李一奉院長、東京都世田谷区駒沢2−6−16、TEL 03・3414・8198、http://komazawa246.com/)

[朝鮮新報 2009.4.1]