「キムチの絵本」、農文協から出版 世界に広がる「朝鮮半島のオモニの味」 |
「キムチつくって、仲良くしよう」 本紙で「朝鮮の食を科学する」を長期連載してきた鄭大聲滋賀県立大学名誉教授は、発酵学専攻。朝鮮半島の食文化研究やキムチなどの日本伝来、普及過程研究の第一人者でもある。 その鄭さんの手による本書は、農文協の手づくり加工絵本シリーズ「つくってあそぼう」(全35巻)のなかの一冊。辛くておいしくて健康にもいいキムチの歴史文化から作り方、食べ方まで盛りだくさんの内容。子どもからおとなまで楽しめる易しい文章、クレヨンとクレパスで描く画家・加藤休ミさんのノスタルジックな絵も印象的で味わい深い。
朝鮮半島の漬物を一気に変えたというトウガラシ。塩辛や果物を添加できるのも、トウガラシの辛味成分カプサイシンの酸化作用があるため。トウガラシは17世紀ごろに日本から朝鮮半島へ伝わり、18世紀の半ば頃から漬物に使われるようになったという。さらに20世紀に入って、人の移動とともに中央アジアやシベリアなどにも広がった。
本書によれば、日本でキムチファンが急速に広がったのは昭和30年代だという。その後、消費量が圧倒的に増え、「1982年から2002年の20年間の統計をみてみると、キムチの消費は10倍もふえて36万トンにもなっている」という。これは日本の伝統漬物のたくあんの4倍の消費量で、日本の各漬物の生産量を大きく引き離し、トップ商品になっている。 今では、日本の食卓に欠かせないキムチも半世紀ほど前までは、朝鮮人差別の代名詞のように使われた。鄭さんも幼い頃、理不尽な差別で苦しんだ経験を持つ。しかし、大学に入学した時に担当教授から「世界中で最も優れた食品こそニンニク」だと教えられ、当時蔑みの対象となっていたニンニクやキムチなどの食文化の研究に目を向けるようになったという。
そうした著者の体験を踏まえながら、子どもたちに向けて本書でこう訴える。 「食べものは、人間が生活の中から知恵をだしてつくりあげたもの。キムチも朝鮮半島の気候と風土から生まれた生活文化だ。食べもので人を差別することは、けっして、してはいけない」と。
キムチの効能は今や心臓病予防やダイエット、美肌効果にまで及ぶ。とくにキムチの乳酸菌は、胃ガン、慢性胃炎などの原因となるピロリ菌を抑えてくれるという。食べながら健康を手に入れたいという老若男女の圧倒的な人気を誇るわけである。
とりわけ、本書をおもしろくしているのは、「キムチのつくり方」をたくさんのカラー写真を使って、視覚的に紹介している点。キムチ作り全体の手順がていねいに紹介されているので、ちょっと苦手の人にでもキムチ作りに挑戦しようという意欲を持たせてくれるだろう。撮影には朝鮮大学校が全面的に協力した。ウリハッキョでの授業にも大いに活用を勧めたい。 鄭さんは、「『つくる』ということは、物事をよりよく実感させてくれる方法だ。キムチをただ食べるのではなく、つくり方を体験することで、キムチという食べものにこめられた知恵、その価値がわかると思う」と指摘する。そして、「となりの朝鮮半島の国の人びとと仲よくするのに、キムチの辛い味、おいしさが役立ってくれれば幸いである」と願っている。(鄭大聲編、加藤休ミ絵、1800円+税、社団法人農山漁村文化協会、TEL 03・3585・1145)(朴日粉記者) [朝鮮新報 2009.3.30] |