時おり訪ねると
口ぐせのように
オモニは静かに言うのです
「こんなにいい時代
きれいな服も着て、やりたい事をやりなさい」 苛酷で、痩せこけた世に生まれ
うら若き十八のころ玄界灘を越え
這いずるような人生に腰を曲げたオモニ
砂利掘る川辺で指先は減り
豚の餌集め蝕まれた体 私がまだ幼い頃
妹たちと取合いになると
オモニは決まって言うのでした 寝たきりだったお前のハラボジに
麦飯の中炊いた一にぎりの白飯が
どんなにおいしく見えたことか、
コッシン、コッシンとねだっては
十二度目の正月にやっと叶えてもらった靴
もったいなくて胸に抱えて歩いたのだよ、
女に学問など許されぬ時代
こっそり肩越しに字の勉強
冷や冷やしながら覚えたものだよ 抑圧と空腹の日々に
耐えて生きることが染み付いた
オモニ、
私はあの頃
その思いも知らずに育ったのですね 今やっと私も
二人の子を持つ親になり
オモニの気持ちをなぞってみるのです
過ぎ去りし歳月
朝鮮のオモニ達が呑んだ声無き涙を
この恵まれた日々の中、胸に刻むのです 1985年9月 呉香淑詩集「梅の花」(02年文芸同文学部) オ・ヒャンスク
46年広島県生まれ。朝鮮大学校文学部(当時)卒業後、今日まで同大学で教べんをとる。在日朝鮮人女性として初の共和国文学博士。著書に「朝鮮近代史を駆けぬけた女性たち32人」(梨の木舎)などがある。
(選訳・金栞花) [朝鮮新報
2009.3.16] |