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「今求められる子育て支援の提言−大阪・同胞女性の意識と現状の調査」(下) 留学同近畿大学支部グループ論文

4 自由記述質問の整理集約に対する考察

 全ての質問に対する回答の言葉の端々を見ると、以前のような「闘争的、反骨的」な姿勢は感じられず、どちらかと言うと「友好的」な感情が全体を通して見受けられた。これは、在日同胞女性たちが「朝鮮(韓国)人として」日本社会に順応していき、その中で子育てをしたいという感情の表れではないだろうか。

 他方、とくに子育てに関しては、「国籍も民族も関係ない」「同じ人の親である」「さして不便はしていない、していても国籍や民族は原因にならないはず」という意見が問21や問24で多く見られた。

5 全体に関する考察

 3(2)で、同胞多住地域と同胞過疎地域に分けて考察をしたが、記述質問においても同じような傾向が表われた。問19において「自分は今子育てに適した環境にない」と答えた25人はほぼ半分ずつの割合で同胞多住地域と同胞過疎地域から出ていたが、その理由は、同胞多住地域が「近くに自然がない」「社会環境が悪い」「治安が悪く子どもだけで遊びに行かせることができない」など、一般的であったのに対し、同胞過疎地域在住者からは、「学校が遠い」「近くに同胞がいない」「子どもが学校と違う地域になるので友だちを作りづらい」などの在日同胞の固有な事例があげられた。

 ほかにも、他地方出身者と同地域在住者に分けてみた場合、他地方出身者の方が比較的に悩みやストレスを感じている比率が大きくなった。

6 略

 中でも、同胞多住地域から同胞過疎地域に嫁いだ場合においてはその割合が非常に高く、全ての回答者が「悩みはない、負担に感じない」といった回答を一度もしていない。逆の極端例を示すなら、「悩みはない、負担に感じない」と一度でも回答した回答者の半数以上(54.1%)が結婚以前から同胞多住地域在住者だった。

 また、出身地の如何に関わらず、他地方(府外)出身者は周囲に協力したり助けたりしてくれる人がいないと感じる(もしくは実際にいない)傾向が多いようだ。その原因の一つには、最も気兼ねせずに相談したり頼ったりすることのできる、自身の母親が遠く離れてしまっているという不安感が大いに作用しているのではないかと思われる。

7 提言

 (1) 行政に対して

 行政、地方自治体に求めていくべきは2点ある。

 先ず1点は、以前から民族教育運動の中で繰り返し言われてきている問題だが、朝鮮学校(民族学校)に対する助成金の問題である。養育費を工面するために夫婦がともに働きに出れば、当然、子どもは家に残されてしまう。学校や幼稚班の終わる時間までに両親(もしくはどちらか)が帰って来られれば良いが、そういう場合ばかりではない。理想は、両親の仕事に余裕ができるように、もしくは働きに出るのが片方だけで済むように経済負担が軽減されることだ。

 2点目は、緊急や非常の場合にいつでも子どもを預けることのできる公営施設の必要性だ。

 これは、在日同胞女性に限らず、子どもを持つ全ての人々にとって必要である。

 (2) 組織(総連、女性同盟、学校)に対して

 行政の動きは今すぐには始まる訳ではない。そこで組織としては行政に対する提言の2点目で述べた保育施設を、限定的であれ、学校の設備を使って実施すべきだと考える。

 また、同胞過疎地域に住む同胞への支援も忘れてはならない。同胞過疎地域に住む同胞たちが一番苦しいのは、同胞と互いに接することができないことで、ストレスが鬱積していくことであろう。日々の生活すらも辛くなっていき、それによって、組織や同胞コミュニティー、ネットワークから離れていってしまう。同胞過疎地域に住む同胞への支援はある意味での「同胞アイネット拡大21」運動であると言える。

 (3) 地域社会に求められること

 最後に、地域社会の日本の隣人たちに求めていくべきなのは、子どもたち同士のふれあいの場の形成と社会環境の改善である。

 朝鮮学校に通う児童たちは学校が遠いため、どうしても学校の友だちと学校以外で遊んだり会ったりすることが困難になりがち。そういった地域においては、われわれも積極的にアプローチすべきだが、社会全体として朝鮮学校児童を地域の児童の一人として受け止めていくような土壌作りがなされるべきである。

 このようなことが日常として行われていれば、在日朝鮮、韓国人に対する差別感もなくなり、草の根からの運動としていろいろな在日朝鮮人問題が解決されていくと思われる。

(コリアン学生学術フェスティバル委託論文賞、要約担当・徐昌暎=近畿大学3年、委託機関・在日本朝鮮民主女性同盟中央本部)

[朝鮮新報 2009.3.11]