「今求められる子育て支援の提言−大阪・同胞女性の意識と現状の調査」(上) 留学同近畿大学支部グループ論文 |
日本社会の環境に大きく左右 1 本論文の趣旨 同胞女性たちの子育ての現状は、日本社会の環境に大きく左右され、戦後の1、2世が歩んできたものとは大きく変化している。過去33年(1973〜2006年)の推移を見ても日本全体での出生数はほぼ半減(209万人から109万人)し、合計特殊出生率も40%低下(2.14から1.32)しており、核家族化も進行している。また、在日同胞(オールドカマー)の国際結婚の割合が急激に増加している上、ニューカマーの存在もその変化の要因の一つとなっている。他方、同胞の居住地域が日本全国に拡大するに従って、地方によって「同胞多住地域」と「同胞過疎地域」という差が生じていることも同胞女性たちの子育て環境に大きな影響を与えていると思われる。 今回、われわれはそんな中でも大阪に焦点を絞り、大阪管下の朝鮮学校付属の幼稚班と在日本朝鮮民主女性同盟(以下、女性同盟)大阪の各支部が主催する子育てサークルにアンケートを実施し、同胞女性たちが子育てに対してどのような意識を持っているのか、また、どのような要求性を持っているのかを調査した。 2 アンケートの実施方法 ク 対象 ケ 期間 コ 総回答数 3 アンケート結果 ク 選択系質問の統計全体に対する考察 回答者の構成成分に関して偏りがあったため、いくつかの質問において回答が一点に集中する傾向が見られたが、それ以外の点においては比較的中立的な結果が得られたと思われる。 回答の内容については、同胞多住地域在住者よりも同胞過疎地域在住者の方が経済的負担を訴える傾向が強く表われているのではないかと思われる。要因には、交通手段が不便である上に、地域に朝鮮学校(民族学校)がないなどの理由で、子どもを長距離通学させなければならないために交通費がかさむなどの理由が考えられる。 また、配偶者の子育てへの参加度合いに対する満足度についても同胞過疎地域在住者よりも同胞多住地域在住者の方が比較的高い結果が出ており、後述の記述質問での不満意見のほとんどが同胞過疎地域在住者から出ている。単に配偶者の労働条件の違いということも考えられるが、周囲に同胞や相談できる相手が少ないと言うことで精神的にもストレスが溜まり、結果、配偶者の支援が薄いと感じてしまうのではないだろうか。 ケ 自由記述質問の整理集約 @問18 配偶者の子育てへの参加度合いについて 全体的に見ると、子育てに参加する配偶者は大変積極的に参加しているが、そうでない配偶者は、ほぼ全くと言って良いほど参加しないか、気分によって自分が子どもと接したい時のみ接しているような傾向が見受けられた。また、問17において満足度の高かった回答者の共通点は「家事の分担や手伝いも然ることながら、教育やしつけに関して、父親としてしっかりと行えている」と言う回答が多くあった。 逆に否定的な意見では、「存在しているだけ」「用事を任せても(夫の)母にしてもらうだけ」といった不満意見も出た。 A問20 自身の子育て環境について 問19で、自身の環境が子育てに適している、子育てしやすい環境であるとした意見の中では、「周囲に(自分か夫の)実家や親族、助けになってくれる人間がいる、または学校、保育園、幼稚園などの施設が近距離で充実している」ことがあげられており、逆に自身の環境が子育てに適していない、子育てしやすい環境ではないとした意見は、前者と全く同じものがないという意見だった。ほかには、「学校が遠い」「地元地域の友だちと学校の友だちとが違うので、子どもが馴染めない」などの意見も見られた。 B問22 日本人女性と在日同胞女性が子育てをする場合の違いについて 違いがあると言う意見の中で、最も多かったのが「経済的に負担が大きい」ということだった。代表的なものは、学校への援助や未就学児童特別手当などの違いがある。次には、「教育などの面で決断を迫られる場面が多い」と言うことだ。 C問25 在日同胞固有の理由での子育て上不便について 「学校に対する国からの支援がない」「学校の行事に行って会費を払う(資金を工面する)のが辛い」などの意見があった。 ほかには、「朝鮮学校は平日休みが多いので、仕事のときに子どもを預かってくれる場所がない」「学校行事の回数が多い」などの学校に関わる不便についての意見があった。 D問26 周囲からの手助けについて まず最も多かった意見は、行政の資金援助、「給食制度がほしい」「公営で緊急時にいつでも子どもを預かってもらえるような施設を作ってくれるとうれしい」と言った意見もあった。 次には、配偶者が、「子育てにもっと参加してほしい、手伝ってほしい」や「子どもと触れ合う時間をもっと作ってあげてほしい」など。 そして、両親などの肉親が「相談を聞いてくれればうれしい」「たまに預かってくれるとうれしい」。 ほかには、総連組織や学校が、「学校の時間終了後も、両親が共働きの子を預かるサービスをしてほしい」、または「学校の運営方針の根本的な転換」などを求める声もあった。(コリアン学生学術フェスティバル委託論文賞、要約担当・徐昌暎=近畿大学3年、委託機関・在日本朝鮮民主女性同盟中央本部) [朝鮮新報 2009.3.4] |