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〈本の紹介〉 植民地朝鮮と児童文化

子どもの近代朝・日文化史

 植民地期の朝・日関係史を日帝侵略史や植民地教育史などの観点で扱った研究は比較的多いが、文化関係史の観点から扱った研究に出会うことは易しくない。とりわけ、児童文化と児童文学の関係史という観点による本格的な研究としては本書が初めてだろう。

 近代国民国家の人的資源は、制度教育とその周辺に広く存在する子どもの生活全般に関連した精神文化現象を把握してはじめてその全体像を知ることができる。
 

 植民地期の少年雑誌や唱歌に現れた帝国主義的世界観や富国強兵の理念は、近代日本の国民精神として広く普及した。

 本書は1895年から1945年までの約50年間にわたる近代朝・日両国の児童文化、文学における相互関係を見渡し、その全体像について研究を行ったものである。

 なかでも注目されるのは、新しく発掘された貴重な一次資料が持つ研究史的意義だろう。崔南善の「京釜鉄道歌」と雑誌「少年」、方定煥の口演童話運動に影響を与えた日本の巌谷小波の口演童話に続いて、1920年代から始まった童話集ブーム、プロレタリア児童文学、植民地時代の総督府の「児童文庫」及び児童文化教育に至るまで、これまで調査されてこなかった総督府資料まで調べ、広範囲に取り上げている。

 1908年に崔南善が発表した朝鮮初の近代唱歌が「京釜鉄道歌」であることは大和田建樹の海外拡張志向の唱歌類や鉄道唱歌と比較するべき興味深い事実である。「京釜鉄道歌」は文明の主体が日本人にあることを嘆き、民族の主体性を主張したこの時代の朝鮮人の歴史観を知ることができる重要な考察である。

 本書において興味深いのは近代日本と朝鮮の児童文学、文化運動の創始者といわれる巌谷小波と方定煥(雅号は「小波」)の口演童話運動についての考察である。

 「口演童話」は近代日本の児童文化を特徴づける物の一つで、巌谷小波がはじめて行ったといわれている (1913年、23年、30年朝鮮、満州など)。著者は巌谷小波の口演童話会が日本語による日本人の価値観や文化を伝播するための帝国主義的なものであったのに反し、方定煥の口演童話会は朝鮮語による民族の独立を願う密かな民族運動であったと述べている。巌谷小波の児童観は積極的な「桃太郎主義」、方定煥は「童心主義」「涙主義」といわれる。「二人の小波」を通して朝・日の近代の子どもの教育と文化について象徴的に知ることができる。

 1920年代に日本人が収集編纂した「朝鮮童話集」に対する考察や、1930年代に唯一の日本プロレタリア児童雑誌として刊行された「少年戦期」における考察は貴重である。著者は「近代朝鮮における少年運動の歴史に関する研究はあっても、それが日本プロレタリア児童文化運動との関係で論じられたことはなかった」と述べ、1930年代のプロレタリア運動の中では、民族、国家を越えた連帯関係が形成されようとしていた事実を指摘している。

 共和国の資料も踏まえて研究がなされれば、一層包括的で本質的な研究になると思われる。(大竹聖美 著、社会評論社、TEL 03・3814・3861、3400円+税)(孟福実 朝鮮大学校准教授)

[朝鮮新報 2009.3.2]