top_rogo.gif (16396 bytes)

「在日高齢者の生きがい−実態調査と展望」(上) KS医療・福祉ネット関東&朝鮮大学校短期学部1年生

同胞らとの交流強く望む

 近年日本社会では、増加する高齢者に対する「生きがいづくり」が非常に大きな課題となっているが、これは在日同胞社会でも同様である。このような現状を目の当たりにして、留学同Korean Student医療・福祉ネット関東(以下留学同)及び朝鮮大学校の学生(以下朝大生)は、自分たちがどのようにこれからの同胞社会に貢献できるのか、を明らかにするためこの研究に臨んだ。

 また、日本社会同様、同胞社会でも起きている少子化によるセセデ(新しい世代)の減少や、在日同士の交流を行うのが非常に困難なため、「同胞離れ」や「同胞の分散」が起きている現状で、同じ朝鮮民族の一員であり、同じセセデである朝大生と留学同が一緒に考察し、互いの意見を主張して、このような研究を行うのは非常に重要である。

 この研究によって同胞高齢者の現状を知り、あわせてセセデの役割を明らかにし、私たちセセデができること、しなければいけないことを提示したい。

 在日同胞高齢者の実態を知るために、在日同胞高齢者65歳以上を対象に、同胞高齢者施設2カ所(デイサービス朝日、川崎アリランの家)、西東京朝鮮第2初級学校、東京第1初中級学校で行われたバザー、西東京第1初中級学校で行われた長寿会、鶴見市の長寿会、立川市の同胞宅で、2008年10月6日より10月25日まで、主に学生が質問する形式でアンケートを実施した。

 アンケートの分析や考察は文献を用いて、朝大生と留学同が共に話し合い、結論を導いた。

 アンケート結果より以下の事がわかる。

 ・介護を受けている人14人中、8人が同胞福祉関係者から介護を受ける事を希望している。うち5人は現在既に同胞福祉関係者から介護を受けている。

 ・介護を受けている人14人中、6人が同胞施設での介護を希望している。うち5人は現在既に同胞施設で介護を受けている。

 ・介護を受けていない人36人中、17人が自宅、8人が同胞施設での介護を希望している。

 ・全体の76パーセントの人が同胞医療従事者による、医療福祉の提供を望んでいる。また現在介護を受けている14人中、13人が同胞医療従事者による、医療福祉の提供を望んでいた。うち10人はこれを非常に必要だと感じている。

 ・「生きがい」を持っている人の過半数以上が同胞医療従事者より介護を受けている

 ・「生きがい」を持っている人の多くは同胞の施設で介護を受けているが、「生きがい」を感じていない人で、同胞の施設で介護を受けている人はいない。

 ・「生きがい」を感じていない人の方が、同胞との交流を望んでいる。

 「生きがい」とは非常に曖昧な概念で、さまざまな定義づけがあるが、私たちは「生きがい」を、個々の人生の過程で形成される心の充実感や、生きる事に対する価値、目的、意味と定義する。

 社会が安定しだした1970年代以降、日本では人々の平均寿命が延び、高齢者が増加した。結果、職業や家族役割をまっとうした後も20〜30年の「余生」が多くの人に残り、より積極的にこの期を生きたいという欲求が生じ、自分の第二の人生について考える高齢者が増加した。そして高齢者の「生きがい」や「生きがいづくり」は注目を浴びるようになった。

 また高齢期の特徴として、配偶者や友人の死、高齢化に伴う身体機能の低下等、さまざまな喪失の体験や、定年退職による職業役割や家族役割の変化に伴い社会的役割の希薄化が挙げられる。これによって心理的に抑うつやストレスを感じ易く、生きがいが得られ難い傾向がある。

 以上のような時代背景及び高齢期の特徴より、高齢者にとって「生きがい」は大切であり、「生きがいづくり」は必要不可欠である。

 他者との関わり抜きに生きていくことはできない。このことをを抜きに「生きがい」を語ることはできない。よって「生きがい」の多くは、人間関係と関連しており、「生きがい」を実感することのできる社会とは人と結びつきのある社会だ。

 同胞高齢者の「生きがい」は、同胞との結びつきと深く関連している事がアンケート結果より言える。異国の地で生活し、日本人にはないさまざまな差別や苦労を経験してきた同胞高齢者の多くが、同胞との結びつきをより重視すると思われる。

 よってアンケートの結果のように、今後も同胞との交流や同胞医療従事者による医療福祉の提供を望んでいる高齢者が多い。とくに現在、同胞医療従事者による医療福祉の提供を受けていない人が、同胞医療従事者による医療福祉の提供を望んだり、必要としていたりすることがアンケートの結果より明らかである。

 これは同胞医療従事者以外から医療福祉を受けることに対し、何か違和感を感じたり、満足したりしていないことを意味する。また現在、同胞医療従事者による医療福祉を受けている人の過半数以上が、これを望んだり、必要と感じたりしている事もアンケートの結果より明らかだ。これは実際受けている人の声であり、同胞高齢者が望む現実的かつ適切な医療福祉のあり方ではないだろうか。(コリアン学生学術文化フェスティバル委託論文賞=要約担当・崔賀英=委託機関・在日本朝鮮人医学協会)

[朝鮮新報 2009.2.4]