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〈みんなの健康Q&A〉 介護とうつ−対処法など

介護の役割 家族で分担、福祉サービス利用し気分転換も

 前回お話ししたように介護の問題は切実です。今でも忘れられない事件があります。

 ある地方都市で数年前に、介護をする夫が、妻から「殺してくれ」と懇願され、思い詰めた末妻の首を絞め殺害し、逮捕・起訴されました。地域住民は日頃から夫の献身的な介護の事実を知っていたので署名活動が始まり、裁判所には夫の減刑を求める膨大な量の請願書が集まりました。裁判では情状酌量が認められ釈放されたのですが、釈放されたその日に、夫は自宅で首を吊り、自殺をしてしまったのです。今でも忘れられない悲惨な事件です。このような悲惨な事件にも何かしらの手だてがあったはずです。今回はその対処法などを説明したいと思います。

 前回説明したAさん・Bさんのケースにも言える事ですが、今まで当たり前に過ごしてきた日常から、突然不慣れな介護生活に直面し、それに適応できず、不眠・イライラ、さては抑うつ状態となるパターンが多いようです。

 その一つの原因として、現在の核家族化を挙げる事ができると思います。以前なら祖父母の同居はもちろん、親せきの叔父、叔母までも同居する3世代同居も珍しくありませんでした。家族というコミュニティーに余裕があったのでしょう。10人家族で1人が30分の介護時間を捻出できたら、全部で5時間になります。しかし現代社会では核家族化が進み、各人に絶対的な時間の余裕がありません。そうすると、どうしても一人に集中せざるを得なくなり、介護をする人のストレスが並大抵ではなくなってしまうのです。ですからAさんの場合、父親の大声をキッカケに、胸につかえていた、やり場のない怒り、焦り、疲れがその時一気に放出されたのでしょう。

 毎日介護をしていれば、悩みや疑問がうまれてくるものです。そんな時は人に相談したり、話を聞いてもらったりする事が大切です。家族みんなで気づいた事を話し合い、病院の医師に相談するなど、介護する人が悩みを一人で背負い込まない事です。

 実際に介護する人だけではなく、家族全員が介護に積極的に関わっていく必要があるのです。また、主に介護する人の肉体的・精神的な疲労を気遣う行動が大変重要です。

 経済的な事はもちろん、情報収集、行政手続などの面で、家族全員が介護に参加する事です。これらは直接的な介護ではありませんが、仕事が忙しくてもできる介護です。同居していない兄弟などは1週間のうち、ほんの数回でも介護を交替したり、週末に預かったりする介護でも良いのです。学校に通う子どもたちでも、直接の介護行為はできなくとも、介護を受ける人とのコミュニケーションを図る事はできます。有給休暇を取れる方は、主に介護している方の代わりに病院に連れて行き、主に介護している人が気分転換できるよう、積極的に時間を作ってあげると良いでしょう。介護をする人一人に負荷が集中しないように、家族全員で心がける事が大切です。

 また、介護の役割分担が進まない時には福祉事務所・地域の保険師・地区の民生委員などに相談してみてください。親身になって相談に応じてくれるはずです。

 介護の役割を少しずつ家族で負担するのが、介護を長続きさせる秘訣です。その家の主婦がメインの介護者の場合は、週末はほかの家族が介護を担当して介護から解放し、友人との食事、お稽古など、リフレッシュできる時間を作ってあげるのも良いでしょう。ほかの家族も、週末だけでもメインの介護者の日々の苦労が解るようになり、より良い介護ができるようになります。

 家族に介護を頼む事が、メインの介護者の力不足という訳ではないのです。できない時や、手伝いを申し出てもらった時は率直にお願いしましょう。介護者の体と心が健康だからこそ介護を続けられるのです。

 介護サービスとしてデイサービスやショートステイを上手に利用するのも良い方法です。介護保険制度を使えば、介護保険サービスを利用しやすくなります。家族の負担を減らす効果や、専門的介護を受けられるなどのメリットがあります。

 自宅のお風呂に身体の不自由な大人を入浴させるのは至難の業です。中腰で無理な体勢をとれば、ギックリ腰になるかも知れません。訪問入浴サービス、デイサービスなどを上手く利用すれば、介護される本人も気持ち良く、清潔になれます。

 福祉サービスを利用することは、介護者として、決して申し訳ない事ではありません。介護は子育てと違い、いつ終わるかわからないのです。長続きさせる事が介護には大切です。また、専門家に安心して任せ、介護から解放され、リフレッシュをし、明日からの介護に、新たな気持ちで取り組む事ができるのです。

 それから、介護を受ける本人にとってもメリットはあるのです。家族以外の他人と交流する事で、適度な刺激を受けますし、また介護者にとっては、気が付いた時に、専門家に介護の相談ができる機会にもなるのです。

 介護する人の健康維持のためには、気分転換、睡眠、食事が欠かせません。気分転換時には、介護の事を考えなくて済むような時間を作る事です。睡眠と食事は体の健康だけでなく、心の健康にも効果的です。介護と一口に言っても、それぞれの家庭の事情がありますし、抱えている問題も違います。もちろん支えるメンバーも違います。人が人を世話するには、いろんな形態や、方法があると思います。

 介護とは、細く長く続いていくものがほとんどで、それと上手に付き合っていく方法を見つけていかなければ、途中で投げ出したくなったり、何もやる気が起こらなくなったり、介護される人を取り巻く人間関係にヒビが入ったりする事もあります。

 介護者は日頃から話ができる相手を探しておく事が大切です。家に閉じこもって一人悩んで悶々としていても、何も問題は解決しません。地域で開催されるさまざまな介護者の集いに出かけるのも良いでしょう。もしも心身に違和感があったならば、メンタルヘルスの専門家の診察を受け、家族や行政に協力してもらって、きちんと休養を取って下さい。介護する人の4人に一人がうつになると言われています。介護は特定の人の問題ではなく、いずれは誰でも、介護する側、される側になる可能性が十分にあるのです。

(駒沢メンタルクリニック 李一奉院長、東京都世田谷区駒沢2−6−16、TEL 03・3414・8198、http://komazawa246.com/)

[朝鮮新報 2009.1.21]