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〈本の紹介〉 父とショパン

国を奪われた者にこそ「愛国心」

 在日3世のピアニスト崔善愛さんの著書「父とショパン」の出版を祝う会が、11日、東京・池袋の東京芸術劇場で開かれ、評論家の鄭敬謨さん、立教大学の山田昭次名誉教授、雑誌「世界」編集長の岡本厚さんら約100人が出席した。

 著者は、奪われた民族性を取り戻したい、と生涯、在日朝鮮人の権利獲得運動に身を捧げた崔昌華牧師の娘。その父の怒りや他国に侵略されたポーランドに残る家族のことを思いつつ、異国で狂おしいほどの悲しみをピアノにぶつけたショパン、そして、異国の地でアウトサイダーとして生きた音楽家たちの人生に思いを馳せつつ、自らの人生を振り返った。

 善愛さんは21歳で指紋押捺を拒否、23歳でそのために日本への再入国が不許可になった。日本の大学、大学院に通いつつ米国留学の道を探ったが、実際に日本を出国する際には、「再入国の不許可取り消し」の裁判を起した。日本という国家に排除され、不条理な体験を強いられた善愛さんだったが、その後、音楽家としてさまざまな状況の中で生き抜く人びとに出会うことによって、「在日」という存在が決して特異なものではなく、世界中にいる普遍的な存在であることに気づいた、と述懐する。

 この本のタイトルにもなったショパンも、「もう二度とこの国に戻って来れないような気がする」という言葉を残し、帝政ロシアの占領下にあった祖国・ポーランドから追われた。ショパン没後から100年、今度は第2次世界大戦下ナチスドイツによる徹底的な侵略を受け、ワルシャワの街は破壊され、「ポーランドの魂」とされたショパンの音楽は禁じられたという。

 こうした歴史を紐解きながら、著者はショパンと朝鮮の詩人・尹東柱の受難を重ねて見る。パリで活動したショパンは民族の魂を異国の地で奏でることを許されたが、朝鮮語で詩を詠んだ尹東柱は、捕らえられ、福岡刑務所で獄死した。「ショパンと尹の二人の精神はわたしの中でつながっている」と書く著者。国を奪われた者にこそ愛国心という言葉は許されるのであって、「奪った側の人々が愛国心を合唱するとき侵略と戦争は推し進められていく」との指摘に共感する。

 音楽、民族、歴史への窓を開いてくれる秀逸な一冊。(崔善愛著、影書房、2000円+税、TEL 03・5907・6755)(朴日粉記者)

[朝鮮新報 2009.1.16]