〈危機幻想の本質を問う-中-〉 巨額MD中心にした軍需マーケットの拡充 |
米日韓の一体化した利権欲望
ほどなく自公政権が崩壊し民主党を中核にした政権が誕生するのかどうか。民主党中核政権なら、たとえば対朝鮮を含む日本の安全保障政策はどうなるのか。 同党は09年版政策集原案で新しい日米同盟を謳う。「国際社会で米国と役割を分担し責任を積極的に果たす」と強調する。朝鮮に関しては「日本ほど北朝鮮の脅威にさらされる国はない」との認識を示す。しかし、そのあたりで足を止めてしまう。なぜか。 まず凝視したいのは次の点だ。彼らは寄り合い世帯ゆえおくびょうになっているのではない。思考を「危機幻想」からスタートさせている。これが問題なのである。相変わらず、被害者づらをした主観まみれの幻想に陥っているかぎり鮮明な転換は望みうべくもないのである。おまけに、彼らは米国との役割分担を誓うが、そのことばによってこんな場面を想起させられる。 「北朝鮮に対し米日韓などの3カ国の協力を進める必要があります。オバマ政権は、これまでの政権よりも、日本が対等のパートナーとして世界の舞台で活躍することを、集団的自衛権の活動に参加できるようになることを歓迎すると思う」 5月13日の経団連会館で開催された安全保障シンポジウム。コーエン元米国防長官はそう指摘し発言をしめくくったのだった。 米国との役割分担 哀しいことに民主党方針はこのコーエンの指摘、もしくは叱咤とも受け取れるパラグラフにすでに飲みこまれてしまっていると思えなくもない。とすれば、日本の次の政権がどのようになろうと、自公支配のままならかなり早い時期に、次の方向へ進んでいくに違いない。コーエングループ副社長のボドナー元国防次官補が日本の、たとえばこんな義務をあげる。 「私たちは変化の中にあります。小沢氏(前民主党代表)は『対等な同盟関係』と言いました。対等ということなら多国間で日本のはたすべき役割があります。(日本は)軍事費を増加せよ。国土から遠く離れた地域での軍事作戦に参加せよ。前方展開のため外国に駐屯地を確保せよ……。これらを(年内にまとめる)日本の防衛計画大綱や米国のQDR(4年ごとの国防政策見直し)に反映すべきです」(安全保障シンポジウムにおける発言要旨) ところで、つい昨日まで米国の安全保障にかかわる政官業の関係者≠ェ「日本」に何かを求めるときはたいてい、くどいほど「これはあなたがたの自主的な判断です」といったたぐいのセリフをくっつけていたものである。しかしいま、そうした雰囲気はあまりない。なぜ、飾りを取り払い遠慮なく日本国憲法の毀損行為をそそのかすようなシチュエーションになったのか。 いみじくも安全保障シンポジウムの開催された経団連会館が、正確には「日本経団連」が、この問いに対する答えのひとつを示唆しているようなのだ。 日本経団連(防衛生産委員会。歴代委員長=三菱重工業会長)と米国の軍需企業群は96年秋に手を固く結んで日米安全保障産業フォーラム(IFSEC)を設立する。冷戦の終焉による大不況をどう乗り切るか。彼らが目をつけたのは、巨額MD(ミサイル防衛)ビジネスを中心に据えた日本軍需マーケットの拡充である。そして00年代。この作業を日米政官業のトップ層の集う日米安全保障戦略会議が継承して安全保障の「ビジネス化」を徹底的に押し進める。でも、好事魔多し、07年に防衛省を舞台にしたすさまじい腐敗を暴露されて挫折する。守屋前事務次官の逮捕などだ。 腐敗化ビジネス とはいえ、あの騒動から1年半ほど経ち、ようやく熱湯が喉元を過ぎた。そこで三菱重工業がそろりと動く。この第一弾が5月13日の安全保障シンポジウムである。つまり彼らは再び腐敗化ビジネスにいそしみ始めたわけだが、明確に押さえなければならないのはそのような過程で彼らが、もともと表面をとりつくろう薄皮でしかなかった「憂国」や「この国の危機」や「国際社会貢献」を、他方で「田母神俊雄航空幕僚長」を生みながらさらに軽薄なうわごとめいたものにし、あまつさえMDシステムにより日米の軍需産業の結びつきをとてつもなく強化してしまった醜悪実態である。 言い換えると、政策が彼ら共通の欲望に従って形成される、いわばそんな光景(シチュエーション)だと「あなたがたの自主的な判断」などのセリフはもはやあまりにもそらぞらしいだろうし、この親密さを踏まえてじつは彼らの視野が「日米韓」へジワリと拡大している点に注目すべきだ。 「米日韓などの3カ国の協力を進める必要がある」と、コーエン元国防長官は言う。日米安全保障戦略会議などにおける日米軍需産業の同体化の過程ではたしてきた彼の役割を考えると、それは「これまで並存してきた『日米』『米韓』という軍需マーケットの枠組を外し一体化させてしまおう」、そんな提言のようにみられなくもない。いずれにしろ「北東アジア」は今日、危機幻想に背を押され、同時にひときわ強い軍需利権欲望に手を引かれて、とても危うい領域へスッと滑落していきそうなのだ。(野田 峯雄、ジャーナリスト) [朝鮮新報 2009.7.8] |