「日米ミサイル迎撃」大演習を嗤う(下) 日本の軍拡警戒する世界メディア |
日本政府は10日、13日に切れる朝鮮船籍船の入港禁止など、朝鮮への独自の経済制裁を1年延長することを閣議決定した。送金規制の強化も検討するという。 7年前からの「拉致」偏重報道と、1カ月にわたって朝鮮の「ミサイルの脅威」を煽る情報の銃弾≠ノよって、在日朝鮮人と朝鮮の往来を不当に妨害する「制裁の強化」が当然のように語られている。 私は前回の記事で、政府が「ミサイル」と呼んでいないことについてマスコミより正確だと論じたが、河村官房長官は10日、初めて「ミサイル」と表現した。 メディアの「ミサイル」一色報道に追随したのだろう。メディアが権力を先導する反動化の時代である。 朝日は11日の社説で「北朝鮮−閉鎖国家の不安な行く末」と題して「北朝鮮は、先の弾道ミサイル発射実験を『衛星打ち上げ成功』と宣伝し、初めて「発射実験」と表現した。 しかし、朝日など主要メディアはその後も「ミサイル発射」という表現を変えていない。朝日の電子版は12日、ニューヨーク=松下佳世記者の署名記事で、「北朝鮮のミサイル発射問題をめぐり、国連安全保障理事会は11日午後、非公式の全体会合を開き、発射を非難する議長声明案で大筋合意した」「日本が求めてきた決議という『形式』では譲ったが、『中身』としてはほぼ日本の主張通りの内容となった」と報じた。 NHKなどテレビも12日、日本の主張どおりの内容で議長声明がまとまったと報じた。13日の各紙夕刊も「ミサイル発射問題で議長声明採択へ」と報じた。安保理新決議が不調に終わったことは忘却している。安保理は「ミサイル」という用語を使っていないのに「ミサイル発射」で声明が出たと報じるのは誤報ではないか。こういう報道を提灯記事という。 ロケットと報じた海外各紙 朝鮮のロケット発射について、海外メディアが5日どう報じたかを見てみよう。 英BBC放送は「ロケット発射は、北朝鮮による『国際社会への挑発行為』」と題して、「ロケットの発射について、米日韓は、長距離ミサイル実験を隠蔽するためだと疑っている。(略)オバマ米大統領は、チェコのプラハでの演説で、『北朝鮮は、長距離ミサイルとして使用可能なロケット実験をしたことにより、再びルールを破った』と言った」と伝えた。 海外メディアは朝鮮を「北朝鮮」と呼んでいるが、韓国も「南朝鮮」と表現している。 英紙ガーディアンは北京発で「北朝鮮が長距離ロケットを発射」と題し、「デイヴィッド・ミリバント外相はこれを『衛星発射』と説明し、専門家も、事前分析の中で物体の形は弾道ミサイルの形をしていない、としていた」と報じた。 また、「日本は迎撃しようとしなかった、という。日本は、もし、日本領土が脅威にさらされたら迎撃する、との姿勢を示していた」と書いた。英紙テレグラフも「『衛星テスト』」と報じた。 ドイツの新聞ビルトも「ロケット発射」と記述した。 ニューヨークタイムズはソウル発で、「人工衛星打ち上げのロケットを発射」と報じた。ウオールストリートジャーナルは「多段式ロケットを発射、日本と太平洋を越えた模様。しかし、北朝鮮が言うように宇宙に届いたのか、近隣諸国が恐れるようにミサイルの発射だったのかは、不明」などと報じた。ロサンゼルスタイムズは「北朝鮮は多段式ロケットを発射した」と書いた。 ロイター通信は「長距離ロケットを発射した」と伝え、APも「日本上空にロケット発射」と表現した。 欧米メディアは「国際的な反発を無視して強行した」という見方を伝える一方、朝鮮の言い分も公平に伝えている。 東京は「戦の雄たけび」 しんぶん赤旗は8、12日付で、世界各地の論評をまとめている。 米紙ニューヨークタイムズ社説(1日付)は「米国と、そのパートナーは、最も重要なことに焦点を定めなければならない。すなわち、北朝鮮の核兵器開発を終わらせるということに、だ」と報じている。 南ドイツ新聞(6日付)は「東京から聞こえる戦の雄たけびや、制裁強化、それどころか新たな制裁を求める声は、問題を解決しない」と報道。仏紙ルモンドも6日「対話再開を促すべきだ」と主張した。 香港の週刊誌「ファー・イースタン・エコノミック・レビュー」電子版は「日本が認識すべきは、国際社会の最終目的は朝鮮半島の非核化だということであり、それが日本の国益にもかなう」と論じた。 マレーシアの青州日報は社説(7日付)で「もし日本がこうした朝鮮半島情勢を機会に軍備拡大をすれば、東南アジアにとっては大きな衝撃になる」と指摘した。(以上筆者要約) 野中、田中氏の発言報ぜず 韓国各紙も、日本の軍事的な対応に強い警戒心を示した。 朝鮮日報6日付は、東京発で「日本政府は、今回の事態をミサイル防御(MD)能力誇示の機会として最大限に利用した。『破壊命令発動』以後、迎撃ミサイル配置状況や北ロケットの発射探知情報を直ちに国民に知らせた」と論じた。 ハンギョレ紙5日付は「ロケット落下物が領土や領海に落ちる場合、ミサイル防衛(MD)システムを利用して迎撃するという『破壊措置命令』は結局政治的ショーに終わった」と報じた。 6日付の同紙社説は「事態を整理して否定的な波紋を減らすために努力する時だ。打ち上げた物体がミサイルでないというところでは、概して意見が一致する」と論じた。 野中広務・元自民党幹事長は3月25日、京都で開かれた「日朝友好京都ネット」設立総会で、「日本の過去の戦争の後始末が終わっていない唯一の国が北朝鮮で、63年間もたっているのに、戦後処理ができていない。拉致被害者の問題は国交正常化交渉の中の重要な問題のひとつとして包括的に解決するしかない。拉致被害者が一時帰国だったのに、日本政府が一方的に約束を破ったことが問題をこじらせた。そう言ったら、私に対する脅しや非難がすさまじかった。苦しい状況の中で団結を強め、協力して進む決意の表明として、衛星を打ち上げようとしている。向こう側の事情を推し量ることが隣人として大切だ」と述べていた。野中氏のこのまっとうな発言を報じたメディアはない。 田中均・元外務省審議官は6日、日本テレビの「ZERO」で、外交交渉ではお互いの立場を尊重し、妥協点を探る努力が不可欠だと指摘し、2002年の平壌宣言の合意に基づく対話再開を提唱した。 報道機関は3週間にわたる「朝鮮敵視報道の犯罪」を検証し、野中・田中両氏の持つバランス感覚から学んで、朝鮮敵視報道をやめ、日米の核を含む軍事的脅威を取り除き、東アジア全体の非核化を構想すべきである。(浅野健一、同志社大学社会学部メディア学科教授) [朝鮮新報 2009.4.17] |