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食糧問題解決へ大規模投資 自前の肥料で穀物増産

 【平壌発=金志永記者】朝鮮で国産原料に基づいた独自の肥料生産拠点の整備が進められている。興南肥料連合企業所(咸鏡南道)と南興青年化学連合企業所(平安南道)では新たな肥料生産工程の建設が急ピッチで行われている。両方とも巨額の資金が投入された国家プロジェクトだ。

 農業部門では1990年代末から食糧問題解決に向けた一連の対策が講じられてきた。課題の一つが肥料の正常供給を実現することだった。

 石炭ガス化技術に基づいた新たな肥料生産ラインを整備することで、懸案を一挙に解決しようというのが朝鮮の構想だ。今後、新たな生産ラインがフル稼働すれば、年間1千万トン以上の穀物生産を可能にする量の肥料が生産されるという。

 このプロジェクトは朝鮮が「強盛大国の大門を開く」ことを内外に宣言した2012年に照準を合わせている。

石炭ガス化設備建設に拍車 肥料生産正常化目指し

 「国内に豊富な石炭を原料にした肥料生産システムが正常に運営されるようになれば、食の問題に関しては心配がなくなる」。農業関係者と経済専門家が「2012年構想」の実現可能性について語る時に必ず口にする言葉だ。

変貌する興南

興南肥料連合企業所内の設備の一部

 農業関係者の注目を集めている施設が2カ所ある。石炭ガス化プラントの建設が進められている興南肥料連合企業所(咸鏡南道)と南興青年化学連合企業所(平安南道)だ。南興青年化学連合企業所は1970年代に建設された比較的若い企業所だ。

 一方の興南肥料連合企業所の歴史は長い。日本の植民地統治時代、野口財閥がここに「朝鮮窒素肥料興南工場」を建てた。

 同企業所は50年代の戦争によって主要な生産ラインの76.4%が破壊された。戦後に設備を復旧して、2年後から肥料生産を再び始めた。90年代初めには生産工程の大型化、近代化を実現した。この過程で大部分の設備が更新された。

 興南肥料連合企業所は、1960年代にすでに石炭ガス化技術による肥料生産のシステムを運営していた。植民地時代にはなかった工程だ。農業の協同化が実現した朝鮮では、肥料の増産が切実な課題となっていた。

 80年代、朝鮮は穀物生産1千万トンを達成したと内外に公表したことがある。興南肥料連合企業所が果たした役割は小さくなかった。石炭ガス化による肥料生産システムは「苦難の行軍」、強行軍と呼ばれた90年代後半の経済的試練の時期を迎えるまで稼動していた。石炭ガス化による肥料生産システムを再び確立することは、単なる過去への回帰ではない。同企業所のホン・キョンナム副技師長(44)は、「変化した経済環境に対応するための積極的な措置」だと説明する。

実利追求の原則

 2012年を目指して進められているガス化プラント建設の特徴は、「実利追求の原則の堅持」だ。

 「苦難の行軍」時代に企業所が生産を正常化できなかった理由として、設備の老朽化などがあったが、主な原因は原料難に直面したことだった。窒素肥料を生産する場合、アンモニア(NH3)造成のために、まず水素(H)を得なければならない。企業所では道内にある高原地区炭鉱で生産される無煙炭をガス化することで、その工程を実現してきた。しかし、石炭の生産量が減少したばかりか、東部地区では石炭の質も落ち、既存のガス化工程に適した石炭の産出がこれ以上期待できないという現実に直面した。

 「西海岸地区の炭鉱から無煙炭を持ってくることも考えた。実際に海路で運んだこともあったが、コストがかかりすぎた」(ホン副技師長)

 原料である石炭の運送費など、肥料生産にかかる費用を計算すれば、既存のガス化工程をそのまま運営することは経済的な実利に合わなかった。企業所がその財政負担を自ら引き受け、肥料生産を続けることは不可能だった。

 朝鮮では02年以降、社会主義経済管理の改善措置が講じられ企業所の運営においても最大の実利を追求する問題が強調されてきた。現在、興南と南興の両所で進められているガス化プラント建設計画の根底には実利主義の原則が堅持されている。コストを考慮しないまま、肥料生産を増やして穀物を増産すればいいという「大雑把な事業方法」は徹底的に排除されている。

年内に本格生産

 興南肥料連合企業所には、無煙炭ではなく、東部地区で産出される褐炭を利用するガス化プラントが新たに建設される。

 一方、過去に欧州の設備を導入した南興青年化学連合企業所では、ナフサ(原油を分留して得られる未精製のガソリン)を原料とする肥料生産システムが運営されてきたが、今回、無煙炭ガス化プラントに転換されることになる。

 同企業所では年内に肥料生産が始まる。2つの系列の生産ラインが建設される興南肥料連合企業所では、第1系列がテスト運転を経て11年から、第2系列は12年から本格的な生産に入る。ホン副技師長は、12年には2つの肥料生産拠点がフル稼働し「穀物生産1千万トンを保証する大量の肥料を全国の農場に提供できるようになる」と話す。

 現在、ガス化プラントの建設には国家的な関心が寄せられている。今年2月、興南肥料連合企業所を訪れ、プラントの建設状況を視察した総書記は、そのまま一気に数百qを移動し、西海岸の最北端に位置する楽元機械連合企業所(平安北道)を訪れた。ガス化プラントの核心設備である酸素分離機を生産する企業所だ。最高指導者の東奔西走は、国内で「2012年構想」の基本目標が人民生活の向上にあるということを示すエピソードとして広く知られている。

[朝鮮新報 2009.8.28]