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09年夏の朝鮮 さまざまな変化と思い描く未来

ピアスと携帯電話とテニスコート

大同江の遊歩道で釣りを楽しむ人たち。チュチェ思想塔から朝日が昇る
妙香山にキャンプに来ていた子どもたち。元気に歌を歌っていた
サッカーの朝鮮男子代表選手と朝鮮大学校サッカー特設班の交流会
強化合宿のため朝鮮を訪れた朝高のボクシング部選手たち。試合終了後、朝鮮体育大学の学生たちと談笑する

咸鏡南道の麻田海水浴場で

大安重機械連合企業所労働者のチョン・チャンホさん。68歳のいまも現場でバリバリ働いている

 平壌ホテルにある朝鮮新報社の支局事務所で新聞を読んでいると、急に機械音が聞こえてきた。すると、向かいに座っていた運転手のOさんが、ズボンのポケットから携帯電話を取り出して話し出した。昨年暮れから平壌で第3世代移動通信サービスが開始されたという話は聞いていたが、実際にこの目で見てみると、感慨深いものがあった。

 耳にピアスをつけている女性も見かけた。話を聞いてみると、2週間ほど前に病院で穴を開けてもらったという。お金はいくらかかったのか、非常に興味がわいたのできいてみたが、「お母さんが出してくれたのでわからない」と教えてくれなかった。しかし、朝鮮にピアスの穴を開ける病院があるというのは驚きであった。

 今年の夏、6年ぶりに朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮)を訪問した。携帯電話の普及や女性のピアスは、久しぶりに見た朝鮮の象徴的な変化である。その他、日本のマスコミも取り上げていたが、ハンバーガーのファストフード店ができていたり、金日成競技場前の広場にテニスコートが設けられ人々がテニスに興じていたり、24時間営業の商店ができたりと、目に見える変化も多かった。

 朝鮮に来る前、日本から見る朝鮮半島情勢は非常に緊張していた。朝鮮の正当な人工衛星打ち上げを契機に、米国や日本が国連安保理を利用して朝鮮に対して不当な圧力をかけ、朝鮮はそれに反発し自衛のための2回目の核実験を実施した。現実に緊張状態にあったのは確かなのだろうが、人々の生活ぶりを見るかぎりその緊張を肌で感じることはできなかった。朝鮮はきわめて平穏だった。

 7月27日、朝鮮外務省スポークスマンは談話を発表し、6者会談再開をあらためて否定しながら、「現事態を解決できる対話の方式は別にある」と述べた。。その後、8月に入り、米国のクリントン元大統領の電撃訪朝、南の現代グループ会長の北訪問と5項目の合意、金大中元大統領の逝去にともなう北からの弔問団の派遣と、朝鮮半島情勢は大きく動き出し、外務省スポークスマンの談話は、なるほどそういうことだったのかと納得したしだいである。

 朝鮮の人々は、そのことを事前に知っていたかのように悠然と日常生活を送っていた。数十年にわたる朝米対決の構図のなかで、多少の情勢の変化に一喜一憂することもない。そして、他国がどうあれ、自分たちは自分たちの国づくりを進めるのだという考えが強くなったように感じた。

 平壌市内はもちろん、地方都市をまわっていて多く目に付いたのは、小さな子どもを連れて歩く女性たちの姿である。子どもの数、とくに3歳以下の幼児の数が明らかに多くなっていると感じた。これは本当にうれしい変化だった。平壌産院に問い合わせてみると、「苦難の行軍」と言われた90年代よりも、生まれてくる子どもは増えているとのことであった。

 日本に戻りある私立大学の日本人教授にそのことを伝えると、「子どもの数が増えているというのは、朝鮮の生活が安定していることを示す最も有力な現象だ」と語りながら、「日本の出産率が低いのは、人々が将来に対してばく然とした不安があるから。逆に朝鮮では人々が将来に対し希望をもっているということでしょう」と続けた。

 夏、朝鮮は夜の8時過ぎまで明るい。平壌ホテルのすぐ横にある大同江の遊歩道では、遅くまで釣りをする男性やジョギングを楽しむ女性、勉強に励む子どもや2人だけの世界を作る若いカップルなどが集い、思い思いの時間を過ごしている。そこで流れる時間は非常にゆったりとしている。

 冒頭に携帯電話のことを書いたが、普及することはいいことではあるけれど、朝鮮が携帯電話がなければ何もできないと錯覚してしまう本末転倒の社会にはなってほしくないと思った。

 しかし、そんな思いも朝鮮の人々にとっては部外者の勝手な考えでしかないのであろう。ピアスのことをはじめその他諸々の変化も表面的なことでしかない。2012年が大きなポイントの年であると言われ、日本にいるわれわれもいろいろと2012年の姿を思い描くが、そんなこととは関係なく、朝鮮の人々は2012年に向けて着実な歩みを続けている、短くない朝鮮での滞在でそのように実感することができた。(文と写真=琴基徹・月刊「イオ」編集長)

[朝鮮新報 2009.8.26]