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〈教室で〉 川崎初級 1年担任 梁清姫先生

手拍子、歌で童心を惹く 「遊び」を取り入れた楽しい授業

 3時限目が終わった休み時間。川崎朝鮮初級学校(神奈川県川崎市)の1年生の教室を覗いてみると、数人の児童が机に向かって、熱心にボードについた9つの突起に、2本の輪ゴムを引っ掛けていくつもの三角形を作って遊んでいた。

 「先生、6つできたよ!」

 「私は4つ!」

 担任の梁清姫先生(48)はその様子をほほ笑みながら眺めている。始業ベルが鳴ると、校庭で遊んでいた子どもたちがワッと教室に戻ってきた。

テンポよく

「教壇に立つのが幸せ」という梁先生

 4時限目は国語の授業だ。前回授業で学んだ母音「廟」の復習からスタートした。

 梁先生が「『』の字がつくもの」と手を2つたたくと、児童らはさも楽しそうに、「새해(新年)」パチパチ、「만경대(万景台)」パチパチ、「비행기(飛行機)」パチパチ、「무지개(虹)」パチパチ、「개구리(蛙)」パチパチ…と、テンポよく手拍子を打ちながら示された絵カードを読み上げていく。全員でひと通り読み終えると、今度はそれを1人ずつやってみる。

 「今出てこなかったものの他にはないかな?」との問いに、子どもたちはサッと手を上げ、「백두산(白頭山)!」「대동간(大同江)!」と元気に答える。

 今日は「」の字の勉強だ。梁先生は、「」と「」の発音の違いを教え、子どもたちに「」がつく言葉を尋ねる。

 「헤염(泳ぎ)」「민들레(たんぽぽ)」「스케트(スケート)」「제비(つばめ)」「체육(体育)!」

 教室の時間割を見て、体育の「」を見つけた子どもたちは、大きな発見でもしたかのように目を皿のように見開いて喜んでいる。すかさず梁先生は、「書〜けるよ、書〜けるよ、書〜けますよ〜♪」と歌いだした。子どもたちはそれに合わせて、「체육の字を書〜けますよ♪」と声をそろえる。

 先生が「前に出て書いてみる?」と聞くと、児童らはいっせいに手を上げ、全員(7人)が黒板に向かって「체육」の2文字を書く。大きい字、小さい字、長い字…、梁先生はその一つひとつに丸をつけながら、評価をしていく。

勉強につなげる

ひとつの言葉にもいろんな使い方があることを教える

 教員生活28年。梁先生は、「1年生の授業内容はすべて生活と結びついている」と指摘する。「国語も日本語も算数も、教科書にあるものだけを教えて終わっては幅が広がらない。教科書に留まらず、学ぶことによって開かれた目で、発見する喜びを味わうことが大切。その喜びは、新しいことを学ぶ喜びへとつながり、2年生、3年生と学年が上がるにつれて、もっと学びたいという意欲につながっていく」と話す。

 そのため梁先生は、授業にいわゆる「遊び」を多く取り入れている。「同じことを繰り返すのにも歌いながらやると楽しさは増すし、暗算もゲームみたいに競争を取り入れるとすごく盛り上がる。子どもたちは『○○遊び』をしようと持ちかけるだけでもワクワクしてしまうみたい」。その「遊び」は、授業が終わった後の休み時間にまで食い込んでしまうこともしばしばあるという。

 新任時代、ベテラン教員から「子どもたちをよく見なさい」と言われた。子どもとはよく遊んでいたし、休み時間もなるべく一緒に過ごしていた。でも、クラスのまとまりはいまひとつだった。

 「今考えると、子どもを見るということは、子どもの顔を見ることではなく、子どもが教員の言葉にどう反応しているかを見るということだった。若い頃は、私の言葉を理解していない子どもの反応に気づけなかった」

 10年、15年、20年が経ち、たくさんのことに気づくようになってきた。今では常に新しい気持ちで子どもと接するよう心がけている。

 「教えることに完璧なんてないのかもしれない」

子どもを伸ばす

月1回のオモニ給食の日。「肉うどんはおいしいかな?」

 南武朝鮮初級学校校長を務める夫はよき理解者であり、相談相手でもある。最近、夫婦で「絵に描いたような優等生を育てないようにしよう」と話し合うという。

 少子化が進み、その反面子どもに手をかける親が増えてきた。それは自身が子育てをしながら思うことでもある。

 「毎日学校で子どもたちと接していると、失敗したり、目の前に課題が生じたりしたときに、自分で対処する力が乏しいと感じることがある。一つの失敗が、その子の成長のきっかけになれるよう、大人は少し距離を置いて見守り、子どもに考えさせ、行動させる気持ちのゆとりを持たなくては。子どもを褒めて育てるのと同様に、ときには厳しく叱り、できない事をできるまでさせることも必要だ。叱られたことのない子、失敗したことのない子が、社会に出て立派に役割を果たせるだろうか。大人は子どもの今だけでなく、将来を見据えて関わっていく必要がある」と考える。

 梁先生は、学校教育のはじまりである1年生になる前に、家庭で取り組んでもらいたいことを一つあげた。それは「声を出して返事をすること」。最近、教員の質問にうなずきや嫌々のしぐさで答える児童が増えているという。

 「自分の気持ちを声に出して相手に伝えることを、家庭でも積極的に行ってもらいたい。大人が一方的に語りかけ、代わりに返事をするのではなく、子どもとの対話を心がけること。あいさつ、対話、声を出して返事をする、これらは人とコミュニケーションをもつうえで大切な基礎となるから」

 長年、教員を続けられるよういろんな面で支えとなってくれた周りの人々に感謝しつつ、梁先生は「1年でも長く教壇に立ち続けたい」という。夢は、朝鮮語のうまい子どもたちを育て、ウリマル(朝鮮語)環境を学校のみならず家庭にまで広げること。「そのために、一つでも二つでもできることから始めてみたい」。(金潤順記者)

※1961年生まれ。横浜朝鮮初級学校、神奈川朝鮮中高級学校、朝鮮大学校師範教育学部(当時)卒業、模範教授者、91年初級部「国語」教科書編さん委員、中央教研委員、川崎初級低学年集団長兼初1担任。

[朝鮮新報 2009.12.4]