〈虫よもやま話-26-〉 先祖 |
「ハルベはな、字読まれへんけど、あんたよりかは頭が良い!」 私には大変元気なウェハルベ(外祖父)がいます。そんなハルベの数ある口癖の一つがこれ。 学校に通えなかったハルベは、仕事関係者の名前や住所、電話番号は聞くとすぐに暗記してこれまで生きてきたのですが、それに比べると私は全く及ばないそうです。 現在、地球上に生息する全ての生き物には祖先がいます。もちろん昆虫たちも例外ではありません。 今から約5億年前のカンブリア紀に昆虫類の始祖となる節足動物が海で現れ、その後多くの動物が陸へと進出を始めました。翅を具えた昆虫類=「有翅昆虫」類は約3億5千万年前に出現したことが化石から確認されています。その頃の昆虫の代表はやはりゴキブリ類とトンボ類のようです。 中でも極めて有名なのはメガネウラと呼ばれる「原トンボ目(今のトンボとは異なるグループ)」に分類される種で、翅を広げるとその幅が70センチに達するのですから驚きです。 こんにちの常識では想像を絶するような大きさと形態を具えていた昆虫類の祖先ですが、長い年月を経て祖先の形質は子孫へと受け継がれ、さらに分化を繰り返し、今にいたるのです。 46億年の地球史を1年で表すと、今を12月31日と考えて動物の陸上進出は12月1日と至極最近の出来事です。 しかし、この間は地球史にとって最も劇的な物語の始まり、全ての生き物は今もなおその話の主人公たちなのです。 10代で日本に渡り、兄弟家族のために働き続けたハルベは、数年前に朝鮮を訪問し50年ぶりに家族で唯一生きている実の姉と再会しました。そして高齢から盲目となってしまった姉に自作の歌を披露したそうです。 「誰が引いた誰が引いた、38度線を誰がひいた…」 そんなハルベが最近、私が博士号を取得するのが目標だと知るや、「そうか! これからはチャンドに最敬礼しやなあかんようになるなぁ!」とうれしそうに言うのでした。 当時は願うことすら難しかった勉学への道。冗談だと思える言葉の中にさえ、受け継がなくてはならないものが宿っています。 堂々と進めるこの勉学の道は、まさに1世の方たちからの贈り物。本当にみなさん、いつまでも元気でいてください。(韓昌道、愛媛大学大学院博士課程) [朝鮮新報 2009.11.13] |