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〈教室で〉 群馬初中 初級部3年担任 司空淑先生

知る喜び感じてもらいたい、朝鮮語の語彙数増やす工夫

 群馬朝鮮初中級学校(群馬県前橋市)初級部3年生は、国語の授業で朝鮮の有名な寓話「なまけものでくいしんぼうな子ぶた」を学んでいた。担任の司空淑先生(47)は物語に登場する動物の絵を掲げて、鳴き声をまねてみようと語りかけた。黄牛は「음매〜」、馬は「푸르르」、子犬は「멍멍」、子ねこは「야웅」、おんどりは「꼬끼오」、子ぶたは「꿀꿀」。最初は絵を見て、次はノートを開き文字を見ながら発音に注意する。「伸ばす音や声色にも気をつけてね」。授業では、これらの家畜がそれぞれどんな仕事をするかを考えてみた。

自分の答えを

 「黄牛は畑をたがやし、荷車を引き、辛い仕事をしています」(尹柚奈ちゃん)。先生は、「教科書に書かれたままではなく、自分の言葉に置き換えてうまくまとめた」と評価した。子どもたちは先生の指示に従って動物の仕事をノートにまとめていく。「答えは必ずしも他の人と同じじゃなくても良いのよ。自分の答えに自信を持って発表してみよう」。

 「犬は、悪者が近づけないよう、昼も夜も主人の家を守っています」(成京英ちゃん)、「おんどりは、明け方になると主人を起こしてあげます」(朴英鎭くん)。答えを肯定する先生の言葉に、子どもたちはホッとしたような笑顔を見せていた。

英語教育法を国語に

楽しいクイズで子どもたちを惹きつける

 授業のまとめはクイズゲームだ。先生がある単語を考えて、そこに子どもたちが挙げる朝鮮語の母音と子音が含まれていれば黒板に書く。それらを組み合わせてできた単語(先生が最初に考えた単語)を言い当てたら正解というものだ。

 児童:は?
 先生:ありません。
 児童:は?
 先生:あります。
 児童:は?
 先生:2つあります。
 児童: は?
 先生:あります…。

 黒板に書かれた文字は、。正解は「들놀이(ピクニック)」だ。実はこのゲーム、アルファベットでする「ハングマン」を朝鮮語用にアレンジしたものだ。

 司空先生は長年、中高級部で英語の授業を行ってきた。その経験を活かして、初級部の国語の授業でユニークな取り組みを行っている。

 司空先生が実践するのは、英語のTPR(Total PhysicalResponse)を朝鮮語に置き換えた授業だ。TPRとは、幼児向けの英語教育に使われる一般的な手法という。

発音に気をつけて教科書を読む

 たとえば、赤ちゃんが言葉を覚えていく過程だが、母親が文字や文法を教えて言葉を教育するわけではない。赤ちゃんは人の言葉を聞き、なんとなく言われたとおりに行動して周りの反応を確かめることを繰り返しながら自然に言葉を覚え、話し、読み、書くようになっていく。

 司空先生は、教育関係図書から学び、自身の体験、子育てを通じてこの方法を実践しようと考えた。「聞く→話す→読む→書く→文法」の順序で言葉を覚え、表現・整理し、会話をスムーズにしていくのは英語に限ったことではない。どんな言葉であっても、このプロセスに大きな変わりはないと言う。

 朝鮮学校では、初級部入学当時に日本語しか知らなくても、朝鮮語のシャワーをどんどん浴びせて子どもを朝鮮語の世界に引き込んでいく。「『손을 씻자요(手を洗いましょう)』と話しかけてジェスチャーを加え、水道を指差す。子どもたちがそれを行動で示せたら、朝鮮語を話せなくても理解していると判断できる。1年生では、十分理解できたと思えるところで発音の練習をさせ、文字を見せ、書く練習につなげていく」。言葉と文字を同時に詰め込まず、理解度に合わせてステップアップしていく方法で、1年生の朝鮮語の読み書きがグッと伸びたという。先のゲームも朝鮮語の子音と母音を学ぶ初1から行っている。

朝鮮語力を伸ばす

授業の合間にハンカチとティッシュの持ち物検査

 同校初級部低学年集団長も務める司空先生は、子どもたちの朝鮮語力を高めるために「ウリマル(朝鮮語)運動」にも力を注いでいる。

 「ウリマル ペウムト(学び舎)」と題した土曜日の課外授業では、朝鮮語の語彙数を増やすために月刊誌「イオ」に掲載された「ウリマル図鑑」を活用して、各学年のレベルに合わせたテストやクイズを実施している。初1では、「고구마를 캐요(イモをほります)」を見本に、「イモをどうやって食べますか?」と質問する。子どもたちは、「씻어요(洗って)」「삶아서(ゆでて)」「볶아서(炒めて)」「무쳐서(和えて)」食べると答える。1年生は口頭のみ、学年が上がるごとに答えを書いたり、ジェスチャーゲームを取り入れたりと工夫を凝らしている。

 司空先生は、「朝鮮語に初めて接する初級部のうちに、朝鮮語の『器』を大きく育て、そこにたくさんの語彙を入れてあげたい。単語をただ暗記するのでなく、意味を理解し、自分の言葉として使いこなせるよう、状況に応じて発言する機会も増やしていきたい」と考える。

 これまで初・中・高級部の英語、日本語、国語の授業を行ってきた経験上、「国語の成績が良い子ほど日本語と英語の成績も良かった」と言う。低学年はその基礎を築く時期。

 「子どもたちには知る喜びを感じてもらいたい。本を読んだり、授業を受けて新しい発見があったらそれをうれしいと感じられる子どもに育ってほしい。そのためにも国語力を伸ばすことは大切だ」(文=金潤順、写真=文光善記者)

※1962年生まれ。西東京第1初中、東京中高、朝大外国語学部卒業。東京中高英語教員を経て、群馬初中英語・日本語教員に。現在は、初級部3年担任兼低学年集団長。

[朝鮮新報 2009.10.23]