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〈教室で〉 東京第9初級 2年担任 全明淑先生

授業中 児童の頭はフル回転、知識を実生活で使えるように

 「日本語」の授業。東京朝鮮第9初級学校(東京都杉並区)の2年生たちは机に向かい全明淑先生(49)の発言に注目している。

 「いきなりゲームをはじめても良いかな?」

 この一言に子どもたちの目は輝きを増し、「はい!」と全員が声をそろえた。

 「最初は誰から始めよう? 先生とジャンケンするのよ。ずるはしないで。勝った人だけ席に立つ、負けた人は座ってね」

 クラス全員の「朗読ゲーム」が始まった。ルールは簡単。教科書を読み、「句点」がきたら次の人に交代する。皆が背筋を伸ばしてピンと立ち、教科書を持って活字を凝視している姿から、子どもたちの緊張具合が伺える。文章を読み終えた子は、ホッと一息ついて腰を下ろした。

 春、夏、明、羽、鳴…新しく習った漢字もいくつか出てきた。しかし、1度もつかえることなく全員クリアー。先生と子どもたちは拍手をして喜び合った。

虫のはなし

授業の内容をノートにまとめる

 全先生は、子どもたちに教科書を閉じるよう指示して質問を投げかけた。

 先生(以下、先) タイトルは何でしたか?

 児童(以下、児) 「虫のはなし」です。

 先 虫の何の話?

 児 虫のとくちょうの話です。

 先 トンボと蜂の特徴を話して見ましょう。まず、トンボから。

 児 とべる、人間にとってがいになる虫を食べてくれるえき虫、羽が4まい、足が6本、羽がとう明。

 先 蜂はどのように暮らしていますか?

 児 女王ばちを中心にむれをなしてくらしています−。

 教科書によると、虫には3つの種類がある。@姿が変わる、A水に棲む、B空を飛ぶ。先生はトンボと蜂がどの種類に当てはまるかを児童たちに考えさせた。

セミについて

「セミはなんて鳴くのかな?」

 「今日はお待ちかねのセミについて学びます」

 本文を一行一行読み進めながら、文章に番号を振っていく。そして、さらに文章を丁寧に読み込んで教科書を閉じ、先生は子どもたちに質問した。子どもたちは質問に答えようと耳を傾け活発に手を上げる。

 全先生がアブラゼミの拡大写真を掲げると、子どもたちの集中度はさらに増した。セミの口元を指し、「この管のようなものが口。セミは何を吸って生きている?」と聞くと、即座に「木の汁です!」との答えが返ってきた。この日学んだことをノートにまとめると、先生はCDデッキを取り出した。

 「セミの鳴き声を真似てみましょう。知っている人は2つ、知らない人は1つで良いですよ」

 子どもたちは順に「ミーンミーン」「ツクツク」とかわいいセミに変身した。CDからはそれらのセミの鳴き声が流れてきた。アブラゼミ、ツクツクボウシ、ヒグラシ。先生は鳴くのは「オス」のみと話し、オスの腹には音を響かせる所があると説明した。

 「なぜ、オスだけ鳴くのかな?」。この問いに子どもたちはいとも簡単に「こいびとを見つけるため!」と返し、その後は「こいびとが見つかったら鳴かなくなるの?」「チョウチョのように鳴かない虫はどうやってけっこんするの?」とさまざまな疑問をぶつけてきた。子どもたちの疑問に答える間もなくタイムオーバー。「今度調べておきますね」との一言を最後に、45分間の授業は終了した。

初2の特徴

 かつて歴史好きの少女だった全先生。歴史の授業はどうも退屈で、幼いながらに(私だったらもっと楽しく教えるのに…)と考えたという。「生徒たちに楽しく歴史を教えたい」との少女の思いはやがて将来の夢へとふくらみ、朝大歴史地理学部(当時)卒業後は晴れて社会科の教師になった。中級部や初級部のほとんどの学年を受け持ち、ここ10年ほどは専門科目が日本語に落ち着きつつあると語る。

 子どもたちは日本語を先に覚える。「日本語の基礎をしっかり身につけることが国語力アップにもつながるはず」と確信する。この日子どもたちが学んだ「説明文」は、実生活の中で広く使われるものである。全先生は子どもたちの言語能力を高めることに重点を置き、読み書きはもとより記憶力、集中力、読解力を高めるためにも気を配っている。

 「授業は子どもが45分間ずっと頭を使うよう工夫している。やり取りをする中でワーッと騒いでいても、記憶に残らないのならそれは失敗。今日もしっかり勉強したと実感できる授業を心がけている」

 1クラス10人という少人数も、子ども一人ひとりに目を向けて全員に発表・発言させられる利点があると考える。

 教員生活25年。長い教員生活の中で初2を受け持ったのは初めてだ。「1年生のときに読み書きの基礎を築いているので知識の吸収力がとても早い。教えれば教えただけすべて吸収するような勢いを感じている」。

 2年生の学父母に何かアドバイスをと求めると、「大人は毎日忙しいだろうけど、うちの子はこんなことには興味がないだろうな…と決めつけないで、森羅万象のあらゆる面で子どもの興味を広げてあげてほしい。知的関心と生活の幅の広がりが授業の理解にもつながっていく。子どもの世界をどんどん広げる良い時期だと思って」と言葉を結んだ。(文=金潤順、写真=盧琴順記者)

※1959年生まれ。北海道初中高、西東京第2、東京第1、東京中高、朝大歴史地理学部(当時)卒業。東京第1、東京第2、東京第9で教員。模範教授者、中央教研委員、現在は東京第9初級2年担任。

[朝鮮新報 2009.8.28]