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〈万華鏡−2〉 民族教育における早期英語教育の現状

 民族教育における早期英語教育、つまり初級学校における英語授業実施の現状はどうなっているのだろうか。結論から述べるならば、各々の学校によって現状は異なり、学校の自主的判断に任せているのが現状である。もともと10年位前までは初級学校において英語を教えるという事は皆無に近い状態だった。

 それが2002年の日本の「学習指導要領」の改訂で「国際理解のための外国語活動」として「総合的な学習の時間」が導入された事を機に朝鮮学校でも一連の「変化」が見られるようになったのである。1世の学父母とは異なり、一般的に高学歴を持ち、子弟の学習に対する関心度も高い新しい世代の学父母は日本の教育の流れに対しても敏感で、学校単位、地域単位で初級学校でも英語を扱ってほしいという要望が出始めたのである。

 また、一部の学校においては、民族教育のカリキュラムは日本のそれに比べても優れているという事を積極的にアピールするために、学校独自の判断で課外活動を主な形態として初級学校において英語の授業や活動を実施して来た。今日の民族教育において、初級学校での早期英語教育は一言で言うと、このような流れの中で各学校単位が独自の判断、独自のカリキュラム、独自のシステムを組んで実施しているのである。また、当然のことながらまったく実施していない学校もある。

 「学友書房」が2008年度に行った初歩的な調査によると、全国にある朝鮮初級学校において何らかの形で早期英語教育を実施している学校は60校中34校であり、そのパーセンテージは56.6%である。ちなみに、日本の文科省が2007年に行った「小学校英語活動実施状況調査」によると、そのパーセンテージは97.1%なので実施状況からすると大きな開きがある。

展望と課題

 日本のすべての小学校において実質的に早期英語教育が実施されるのを踏まえて、今後民族教育の初級学校での英語教育に関してどのように対処するべきかと言う議論が行われることは必至であろう。

 民族教育の基本理念が、確固たる自主性と民族性を兼ね備えた在日朝鮮人を育成することにあることはもっとも大切なことである。民族教育において、その対象がどんどん日本で生まれ育ち、日本の言語環境、社会環境、文化環境に慣れ親しんできた新しい世代になっていることを鑑みると、「日本の学校で行っていることは朝鮮学校でも行うべきだ」といった画一的な考えに沿って安易に早期英語教育を実施すべきではないという慎重な意見も少なからずある。

 このような慎重派の意見は主に教育現場に従事する教員たち、また、言語教育、言語教育政策に携わる専門家、研究者のなかで顕著にみられる。一方、学父母のなかでは、わが子の将来を思い、朝鮮学校でも早急に早期英語教育を実施してほしいという意見がどちらかというと多いように見受けられる。いずれにせよ、大切な在日同胞子弟の教育に関わる問題だけに、早急に専門家、有識者などで構成する「研究会」などを設置してこの問題に対する一定の方向性を示すことが必要と思われる。

 朝鮮学校において早期英語教育を実施するとなった場合、主に次の問題が解決されなければならない。@担当教員及びその育成の問題、A実施学年の問題、B実施内容(カリキュラム)の問題、C教材の問題、D時間配分、学習する他の言語との関連性の問題などである。本稿のスペースの関係上、これらの問題に関する詳細な意見は別の場に譲りたい。

まずは広範な調査を

 民族教育の初級学校における早期英語教育については、まだまだ関係者の間で論議が足りないように思える。また、学父母や生徒本人たちの意見なども広範に集約されていないのが実情だ。したがって、今後は筆者も含めて英語教育に携わる関係者らが、より広範囲にわたる実態調査や意識調査を行い、それに基づいて、ウリマル教育、日本語教育の専門家や、現場にいる英語教員たちの意見などを取りまとめて、ある形の「指針」を提示するべきだろう。

 仮に朝鮮学校で早期英語教育を正式科目としては今後も実施しないにしても、また、その反対に、日本の小学校の内容に沿って実施するとしても、単に「右に倣え」ではなく、確固たる科学的、教育的根拠に則った理由を提示して、一定の結論を導き出す必要があるだろう。(金峻、朝鮮大学校 外国語学部教授)

[朝鮮新報 2009.6.15]