top_rogo.gif (16396 bytes)

〈投稿〉 でもオモニたちは諦めない

朝鮮奨学会への3度目の要請
 

朝鮮学校生徒たちの奨学金応募資格認定を求め、各地で集まった署名の一部

 1月30日、朝7時半。安泰淑オモニと私は激しく降りつける雨の中、新宿にある財団法人朝鮮奨学会を訪問するため常陸多賀駅から上野行きの特急「スーパーひたち」に乗り込んだ。

 全国の朝鮮学校のオモニたちの切迫した願いを朝鮮奨学会へ伝えるという、役割の重大さに正直、押しつぶされるような思いだった。今度こそ、今日こそ、オモニたちの要請活動に進展がありますように、と祈る一心だった。

 朝鮮学校のオモニたちはこの3年間、朝鮮奨学会の応募資格を朝鮮学校をはじめとするすべての民族学校生徒にも適用するよう要請活動を繰り広げてきた。

 2007年には1万110人の署名を集め、神奈川朝鮮高校のオモニたちが代表として要請に訪れた。だが、はるばる要請に行っても、会うことさえかたくなに拒む理事役員もいたという。そして「規程が変わらない限り民族学校生は対象外」という相変わらずの返事で、落胆と失望を覚えたと伝え聞いている。

 しかし、そんなことであきらめる私たちオモニではない。

 一方では、私たちの要請を支持してくれる人たちも増えてきた。その人々が呼びかけ人となってくれて、昨年2008年には神戸朝高オモニたちを中心にまたもや日本全国に署名を呼びかけた。今回はその署名を携えての要請となった。

 わが茨城朝鮮初中高級学校のオモニ会もこの間、署名集めに奔走した。今度は必ず要請に加わりたいと願い、実現した。

 こうして私と安オモニの二人が茨城のオモニたちの意見を代弁すべく、満を持して雨の中、上京したのだった。

◇     ◇

 新宿駅で3人と合流した。この日のために仕事を休み早朝から新幹線でやって来た神戸朝鮮高級学校オモニ会の宋元子会長、この3年にわたる要請活動でいつも牽引車的な役割を果たしてきた神奈川朝鮮中高級学校オモニ会の孔連順、車嬉順オモニ。3校、5人の心強い「オモニ要請団」となった。

 そして、今回特筆すべきは、私たちの趣旨に賛同し署名の呼びかけ人にもなってくださった、弁護士の鈴木孝雄先生が同行してくださったことである。

 日本弁護士連合会元人権擁護委員会委員長の鈴木先生は、朝鮮学校に対する差別の是正を求めた1998年勧告の中心的存在。これまでも民族教育のため、在日コリアンの子どもたちの人権のため尽力してこられた。

 遠方からわざわざ来てくださったことにお礼を言うと「今日は一人の神奈川県民としてきました」と一言。控えめな言葉に暖かい人柄が感じられた。

 奨学会に到着し案内された部屋では、役員らしき5人が迎えてくれた。

 神戸朝高の宋会長が遠路はるばる持ってきた署名9694人分(これは実際かなり重かった)を手渡した。

 そして、これから意見を言おうとしたまさにその時、先方の一人がすっと部屋を出て行ってしまった。

 (ええっ! なんで? 少しでも良いから話を聞いて!)

 出鼻をくじかれた感もあったが、こんなことに負けてはいられない。

 まず孔オモニが立ち上がった。

 昨年、神奈川中高オモニ会が1万110人分の署名を携え直接要請に訪れたが、その対応に納得できないこと、その後書面で「当財団は奨学金給付を始めた1961年以来、奨学会の対象は学校教育法第一条に定めた『一条校』の日本の高校、大学(大学院を含む)に在籍する韓国籍・朝鮮籍の学生とした寄附行為と奨学金給与規程に依拠して奨学生を募集してきました」「現時点では奨学生応募資格を定めた奨学生給与規程の改定がなされていないため」要望に添えない旨の回答を受けたことについて、これでは全国のオモニたちが決して納得できないということを話し、前回の要請以降の経過について説明を求めた。

 代表理事はこれまでの数回の朝鮮学校保護者の要請について、またこの間の役員内の討議について詳しく説明してくれた。しかし、給与規定を変更するに至らない現在の情況を、出席した代表理事も口惜しく思われている様子に、私たちはため息を漏らすしかなかった。

◇     ◇

 続いてオモニたちは次々と、現在の朝鮮学校生たちの苦しい生活実態について心情を語り始めた。

 私は茨城初中高の寄宿舎に入っている娘の話を例にとり、日本政府の朝鮮学校に対する差別的施策によって各家庭の経済的負担がとても大きいこと、さらに茨城や東北、四国、九州などの一部地域では通学路が遠く寄宿舎に入らざるをえない家庭も少なくなく、その場合の経済的負担は標準の何倍にも膨れ上がるという現状を切々と訴えた。そのうちに涙が出た。

 オモニたちを励ますように鈴木先生が続けてくださった。

 「オモニたちのお話がすべてだと思います。そのあとでは私の言葉は説得力を持ちません。が、言えることは、100年の歴史を持つ朝鮮奨学会が今日まで理事や評議員の間で意見が一致せず、このような大変な思いを朝鮮学校オモニたちにさせていることに、日本人として申し訳なく思います。原因はかつて侵略戦争を行い朝鮮を分断させる原因を作り、戦後も在日朝鮮人を苦しめ続けてきた日本政府と今日の日本社会にある。悪いのは日本人なんです、あなたたちではない」

 鈴木先生の言葉に驚きとともに、熱いものが一気に噴き出た。

 そうだ。分断の悲劇がこのような障害になっていたんだ。

 皮肉にも同席した人の心がひとつになった瞬間だったかもしれない。

 役員理事は「現時点では民族学校生は対象外、というのは変わらない。が、今後も議論は続ける」と述べた。これが唯一の救いだった。

◇     ◇

 在日同胞学生に対する奨学援護機関である朝鮮奨学会は、成績優秀でありながら経済的に困難な同胞学生に対し奨学金を給付するという事業目的を掲げているにも関わらず、奨学金給付資格対象から民族学校を除外している。この事実は私たち朝鮮学校生のオモニたちにとって、理不尽の一言につきる。

 朝鮮奨学会の役員は、ウリ同胞や日本の有識者で構成されているとのことだが、国連の人権機関や日弁連からも日本政府に対し民族学校への差別是正を求める勧告が繰り返し出されている今日、朝鮮にルーツを持つ子どもたちのための奨学団体が民族学校を差別、否定するようなことが許されると考えているのだろうか?

 給与規程を今の同胞社会の現状にあったものに改定し、朝鮮学校をはじめとする民族学校の生徒たちの奨学生応募資格を認定することがそんなに難しいことなのだろうか?

 日本の学校と民族学校、双方に通う生徒たちに同じように手を差し延べてこそ朝鮮奨学会は、その社会的責務を果たせるのではないだろうか?

 春はもうそこまで来ている。今年こそ民族学校生徒に朝鮮奨学会の応募資格を適用させて欲しい、とのオモニたちの要望はかなえられないまま、入学シーズンを迎えるのかと思うと気が沈む。

 「絶対あきらめない。私たちの要望活動は続けるべきよ」

 孔オモニの力強い一言にはっとさせられて私は思わず襟を正した。

 そうだ。また来よう。何度でも来よう。

 朝鮮奨学会が、民族学校に通う生徒・学生たちに応募資格を与えてくれるよう、その方針を改めてくれるまで、あきらめることなく活動を続けていくだろう。(韓今淑、茨城朝鮮初中高級学校オモニ会役員)

[朝鮮新報 2009.3.9]