〈朝鮮と日本の詩人-76-〉 高群逸枝 |
天は虐政の霧に覆われ (冒頭から4連19行省略) 下関行の三等列車。午睡時の車輪の轟。 窓はぴかぴかする。群集は各々の目で血眼になっている。 この詩は全部で7連29行の「午睡時の帝都(第三節)」のうちの終り2連の全部である。 旧韓末の忠臣朴時奎が日本国内から追放され、三等列車に乗せられて朝鮮に向かうシチュエーションである。その子朴尚鎭は1913年に柳璋烈・蔡祺中たちが組織した大韓光復団に加わった後大邱で光復会を結成した。金佐鎭・盧伯麟たちと協力して組織名を光復団とし、名だたる親日悪徳分子らを処断したが、同志たちとともに逮捕され国に殉じた。詩人はそうした朴尚鎭の闘争歴をしらべてこの詩を書いたにちがいない。「強盗殺人放火の汚名を以って刑場の露と消え」という詩行には、朝鮮の殉国の士をこのような罪名で殺害した者たちへの怒りが滾っている。日帝の朝鮮支配の苛酷な現実は「天は虐政の霧に蔽われ、血は−」という詩行で象徴化されている。「−虚偽は太陽のなかで安息している」という一行は、この詩人のモチーフを込めた一行であり詩的技巧の鋭さを示している。詩は実在の朴時奎父子を素材にしているが、これは決してこの二人だけの現実でないことを読みとることが必要である。 高群逸枝は1894年に熊本で生まれ、1920年に長編叙事詩「日月の上に」を発表して評価された。「放浪者の死」「恋愛創生」「東京は熱病にかかっている」などの詩集がある。後年は詩作から離れ、日本女性史の研究に没頭した。この詩は「日本現代詩大系第7巻」(河出書房新社)からとった。(卞宰洙・文芸評論家) [朝鮮新報 2008.12.22] |