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故郷 −白石−

 私は北関でひとり具合が悪くなり
 ある朝 医員を訪ねた
 医員は如来のような顔に関羽ヒゲをたくわえ
 大昔のどこかの国の仙人のようだった
 小指の爪を伸ばした掌で
 黙々と脈を診ていたが
 ふいに 故郷はどこかと聞いてきた
 平安道の定州だと答えると
 そこはどこそこの一族の故郷だと言う
 それで誰だれを知っているかと尋ねると
 医員はにっこり笑い
 莫逆の友だとヒゲを撫でる
 私が父のように慕う人だと言うと
 医員はいま一度微笑んで
 ふたたび腕をつかんで脈をとる
 その手は温かくて柔らかで
 故郷も 父も 父の友も すべてそこにあった

 「三千里文学」2号(1938年4月)

 (※北関−咸鏡道地方の昔の呼び名 ※莫逆の友―気心がよく通じ合っている友。親友)

 ペク・ソク(1912〜1995)

 平安北道定州生まれ。30年朝鮮日報の新年懸賞文芸に短編小説が当選し、奨学金で日本の青山学院大学英文科に留学。35年に詩「定州城」を朝鮮日報に発表して登壇。36年に唯一の詩集「鹿」を出版。8.15解放後に帰郷。その後、朝鮮作家同盟会員、後進育成に尽力。最近、南でも広く紹介され、朝鮮の土俗的な風景を方言で描いた作品が人気を博す。(選訳・康明淑)

[朝鮮新報 2008.12.8]