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〈朝鮮と日本の詩人-71-〉 古川健一郎

朝・中民族離間策への怒り

 四十万の山東移民は、韮臭い息をして
 俺いらの水田を荒し廻る、支那の泥犬だ。
 支那官憲は、地主と共謀になり
 俺いらの肉を啄む、広野の老鴉だ。
 ああ 金川県の馬賊の奴まで
 俺いらを狙って拳銃を磨くのだ。

 韓人独立党は、小作米掠奪党だ。
 だのに、領事館の旗竿は
 俺いらの鎌の柄よりもまだ短いのだ。
 あゝ 俺達は日本街の日本酒も呑めないんだ。

 北へ北へと押し流される。
 俺いらは小作の「隨日本人」だ。
 俄国の国境で押しつぶされるか
 独立党の手下になるか
 俺いら八十萬の
 さまよえる満蒙の「隨日本人」だ。

 「隨日本人」と中国読みのルビをふった題の詩の全文である。この「隨日本人」とは、中国東北地方の柳河県の伊通河流に移住した朝鮮人小作農に対して、この地方の中国人が用いた新造語で「日本に追従する人」という意味で、極めて侮蔑的な言葉である。

 「四十万の山東移民」は山東地方からの中国人移民をさし「俺いら」は移住朝鮮人である。中国東北地方(間島)では、民族離間策によって中国人は日本人から蔑視され、朝鮮人は日本人と中国人から蔑視された。

 この詩は、中国人移民と中国人官憲と馬賊に膏血を絞られる朝鮮人の塗炭の苦しみ、悲惨な生活を同情の思いのモチーフをもってえぐり出している。「韓人独立党」というのは、口先ばかりで運動を云々する民族主義者らの団体をさしている。第3連の「俄国の−」と「独立党の−」の2行には、亡国の民は座して死するか、独立運動に加わるかの二つに一つしかない、という問題が提起されている。

 古川賢一郎は詩集「氷の道」(32年)で知られるプロレタリア詩人であるが、詳しい記録は見つからなかった。この詩は「現代日本詩体系10」(河出書房)に収められている。(卞宰洙・文芸評論家)

[朝鮮新報 2008.10.27]