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〈本の紹介〉 爆沈・浮島丸 歴史の風化とたたかう

若い世代に真実伝えたい

 太平洋戦争が終結し、戦乱の幕が閉じようとしていた最中、事件は起こった。

 敗戦からわずか9日後の1945年8月24日、京都府舞鶴市佐波賀沖で海軍輸送艦「浮島丸」(全長114メートル、4730トン)が大爆発。船体は真ん中から二つに折れ、海の藻屑と化した。

 多くの朝鮮人労働者とその家族を乗せた船の突然の爆発。釜山港に向かうはずがなぜ? 犠牲者の数は…多くの謎が今もなお残る。

 本書は、@浮島丸事件の概要を紹介A追悼活動のあゆみをたどる−事件の「謎」を追い、犠牲者を追悼する舞鶴市民「浮島丸受難者を追悼する会」(96年結成)による事件を「記憶と記録にとどめ」ようとする草の根活動の軌跡をまとめたものだ。

 長年、「追悼会」を支えてきたのは須永安郎さんと故・野田幹夫さん。約40年にわたる彼らの追悼活動は、62年当時、野田さんが舞鶴市の中学校に赴任したことに始まる。そして、生活指導を担当していた野田さんと教育委員会社会教育課に勤めていた須永さんが、ひょんなことから出会い活動の輪を広げていく。

 慰霊祭、モニュメント作り、映画制作の協力、交流会…二人三脚で歩んできた二人の活動は、私たちにさまざまな示唆を与えてくれる。

 「そもそも歴史というものは、過去をなつかしく思い出すだけのために、あるのではありません。現在や未来に生きる私たちが、ものごとを理解したり、判断する際の重要な『ものさし』として歴史は存在しているのです」(「あとがき」より)

 舞鶴湾を臨む下佐波賀の海辺にある「浮島丸殉難者追悼公園」には、「追悼の碑」が建っている。碑の中央に立つチマ・チョゴリ姿の女性像はぐったりとした赤ん坊を抱え、目の前に広がる舞鶴湾を、真っ直ぐにじっと見つめている。そこには、植民地から解放され迎えられた帰国の喜びと希望、そしてその期待を無残にも阻まれたいくつもの「恨」が眠っている。

 決して過去の問題ではない、あまり知られていない浮島丸事件と、その追悼活動を一人でも多くの人に、とくに若い世代に知ってほしいと、著者は願っている。

 事件の真実に迫り、活動体験をありのままに綴っている本書は、事件に対する十分な知識がなくとも、読みやすく、わかりやすいだろう。歴史の風化をとどめるうえで助けの糸口となる一冊。(品田茂著、高文研、1600円+税、TEL 03・3295・3415)(姜裕香記者)

[朝鮮新報 2008.9.19]