〈本の紹介〉 「『北朝鮮』再考ののための60章」 |
日朝対話に向けて 最近のマスメディアは、右・左、保守・進歩、タカ派・ハト派を問わず、「反北朝鮮」一色に塗りつぶされている。まるで朝鮮について悪し様に言うのが当然であるかのような風潮が蔓延している。ここまで徹底してくると、日本人全体がほぼ全面的に報道を受け入れ信じ込まざるをえなくなってくる。これはどう考えてみても異常な事態である。 その根底には、もともと日本人に朝鮮人差別意識が根強いという事実がある。戦前の日本軍国主義が朝鮮植民地支配の過程で日本人に朝鮮差別意識を植え付けてきた。 問題なのは、戦後もそれが日本人の意識の奥に残されたままとなったことである。日本政府が米国に追随し、米ソ対立にもとづく冷戦思考を固持し、実質的に朝鮮敵視政策をとって国交正常化を拒否したことが大きな原因である。 拉致事件がいまなお尾を引いているのも、日本人が朝鮮差別意識をもっていたからである。もし朝鮮以外の国が日本人拉致事件を起こしていたら、これほどまでに沸騰したり長引いたりしなかっただろう。 政府やマスコミがそうした姿勢をもっている以上、朝鮮差別意識から抜け出すことは容易ではない。けれども、決してこのままでいいはずがない。 本書は、そうした歪んだ朝鮮認識を持つ日本人全般に喝を入れて目覚めさせる野心に富んでいる。著者はマスメディアに登場できる数少ない朝鮮問題研究家である。と同時に、核問題に関しても見識が深いうえに、何事にも萎縮しない強じんなバイタリティーを有している。そうした著者の特長が、本書にはふんだんに詰め込まれている。 幸いにも、現在、日朝関係は大きな転機を迎えている。6者協議が進展し、米国がテロ支援国家指定を解除し、日朝実務者協議で合意が生まれ、日朝国交正常化推進議員連盟が発足している。 また、全国各地に日朝友好団体が新たに生まれたり、既存の運動団体が活動を活発化したりしている。こうした日朝国交正常化を求める運動の裾野を拡げる機会が到来していると言えるだろう。 その際に本書は、日朝運動拡大にとって絶好のアイテムとなるだろう。 日々の歪んだ朝鮮問題報道に汚染されている人々、あるいは最近の報道はどこかおかしいと感じ始めている人々すべてに、朝鮮問題を正しく知るための入門書としてお勧めしたい。(吉田康彦著、2000円+税、明石書店、TEL 03・5818・1171)(北川広和・日韓分析編集人) [朝鮮新報 2008.8.18] |