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〈本の紹介〉 古都開城と高麗文化

東アジア文化史の包括研究

 日本の文化史をはじめとして、朝鮮半島、中国、東南アジアをふくむ東アジアの文化史を包括的に論ずる研究書、参考書は少ない。とりわけ、この地域についての文化交流やその特徴、形成、交流の歴史から探る新しい試みはまことに少ない。こうしたなかで新しい視点から論述された本書は注目されよう。

 本書は書名が示すようにアジア諸国の文化史についての研究書である。なかでも注目される論述は、朝鮮半島の「北朝鮮・韓国文化史研究」や「中国文化史研究」の中の〈中国高麗寺と義天〉、「東南アジア・東アジアの塔・古墳などの壁画の諸相」であろう。著者は「私の見た高句麗の古墳壁画」のなかで「高句麗の壁画古墳は、私にとって、これまでのながい学問研究の道程の中で、最も魅力を覚え、最も強く研究の意欲を燃やした分野であった」と述べている。

 こうした考察のなかで著者は、これまでの「日本の先覚の考証」の過ちを厳しく批判している。例えば高句麗壁画古墳である四世紀の「角抵塚」に描かれた熊と虎の絵を論じて、檀君神話は「あまり古くない」というこれまでの考え方は改めなければならないと指摘している。さらに本書は、日本の古墳壁画に見られる高句麗の影響を強調している。奈良県明日香村の高松塚やキトラ古墳に先行する北九州などの古墳、例えば福岡県若宮市の竹原古墳に見られる馬を牽く人物や、朱雀・玄武の図をあげ、瀬戸内海を通じて蓮華文の絵や彫刻が中国地方や大和地方にもたらされていることを述べている。

 本書の重要な特色の一つとして注目されるのは北部朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の遺跡を実際に踏査して書かれた「開城市霊通寺跡の大覚国師の現状」である。本書によって碑と碑文が1911年に編さんされた「朝鮮寺刹史科」当時よりも破損摩滅していないことが確認されることは真に喜ばしい。本書の「中国文化史研究」において論じられている「中国高麗寺と義天」は高麗王子である義天の活躍と中国との関係を知るうえでもまことに興味深い。また、注目したいのは本書の巻末に付録された1927年から2007年に至るまで発表された著者の数多くの著作目録である。(斎藤忠著、第一書房、3500円+税、TEL 03・3815・1072)(全浩天・古代史研究者)

[朝鮮新報 2008.7.11]