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本 −金秀映−

 本を一冊持っていました。黒い表紙の手のひらほどの本です。一ページ目をめくると雪が降ってくるのです。

 風も眠る森のなか、眠る銀白楊、その幹の透きとおった水路だけが起きていました。一番大きくて雄々しい銀白楊の下であなたは立ち止まりました。あなたが根元に寄りかかるとようやく雪が降り始めたのです。何処かに触れさえすれば解けてしまう雪。そのとき花芽は目覚めたのでしょう。

 遅い春の雪でした。雪は夜ごとに光る珠でした。

 わたしはいっとき愛の詩を綴った本を持っていました。四隅がすり減った古い本です。読んだ瞬間、春の雪のように解けてしまう、美しい言葉でいっぱいの小さな小さな本でした。

「詩が私に向かってきた」金龍澤編

(2001年 マウムサンチェク)

 キム・スヨン

 1967年慶尚南道馬山市生まれ。慶尚大国文科、同大学院卒。92年、朝鮮日報の新春文芸で文壇デビュー。詩集に「ロビンソンクルーソーを思って、酒を」「遠い夜の話」。幼い2人の娘を京畿道揚平郡の自然のなかで育てる。(選訳・康明淑)

[朝鮮新報 2008.2.18]