「女スパイ事件」 連合ニュース、朝鮮日報でも疑問点指摘 |
検察の控訴状を検証した連合ニュースは8月31日、「スパイ、元正花、北側での行跡陳述に疑問点」と題する記事で、7つの疑問点を指摘した。また、朝鮮日報も1日付から「女スパイ−元容疑者の供述だけに依存する捜査」(上、中、下)との記事を掲載し、陳述に疑問を呈した。以下、それぞれの記事の要旨を紹介する。 陳述に7つの疑問点 連合ニュース その1▼「社労青書記」勤務 控訴状によると、元正花は1989年6月頃、社会主義労働青年同盟(=社労青、現在の金日成社会主義青年同盟=青年同盟)の委員長(当時)から抜擢され、昼は社労青の組織部に書記として勤め、午後は金星政治軍事大学で社労青の幹部、突撃隊の大隊長などとともに工作員要請教育を受けたと陳述している。 しかし、青年同盟中央委員会組織部には、社労青当時から書記の職責はなく、また中央委員会は地方から抜擢された中学校卒業生が時間制で勤務するような場所ではないとの指摘がある。 青年同盟中央委員会は、委員長から末端の部員まで朝鮮労働党の組織指導部と幹部の厳正な人事検証を経て配置される。そのすべてが金日成総合大学、平壌外国語大学などの一流大学卒業生で構成され、中卒出身者はいない。 その2▼「金星政治軍事大学で工作員教育」 元正花は、金星政治軍事大学で工作員養成教育を受けたと陳述しているが、(同大学に)いったん選抜されると、外部との接触は徹底的に断たれる。 南向けの工作教育を受けながら、日中は一般人と過ごし午後だけ教育を受けたというのは、常識に反する。 その3▼「平壌牡丹峰区域特殊部隊に入隊」 工作員訓練を受けたという特殊部隊の位置が平壌市牡丹峰区域戦勝洞という点も強い疑問を呈されている。 朝鮮労働党でも軍でも、牡丹峰区域戦勝洞のような市内中心部に特殊部隊の訓練をする場所を設けることはないとの指摘がある。 その4▼「予備党員申請書提出」 工作員養成特殊部隊に入隊し、朝鮮労働党の予備党員申請書を作成して提出したと陳述しているが、北側では「予備党員」はなく「候補党員」と呼ぶという。また、工作員は一般人とは違い、敵地でたたかうため、「候補党員」にはならずにそのまま正党員となる。 「候補党員」申請書の提出年齢が15歳という点も、朝鮮労働党の規約では、「候補党員」の申請年齢は満18歳に規定されているため、つじつまが合わない。 その5▼「2重栄誉の赤い旗記章」 「成績がよく学校に貢献した生徒に与えられる『2重栄誉の赤い旗記章』」をもらったとの陳述が起訴状にあるが、これは個人に授与されるものではなく、模範的な学校や学級全体に与えられるもので、記章は賞を授与した学校や学級全員に贈られる。 その6▼「工作員家族」 父親は1974年頃に南に潜入中に殺害され、母親はその2年後に再婚したと陳述しているが、「工作員家族」は「革命家家族」として優遇され、夫人は再婚しない。とくに70〜80年代に活動した工作員の夫人が再婚するなどはありえない。 その7▼「妊娠状態で潜入」 脱北者に偽装しやすいとの理由で妊娠中に南に入ったというが、工作活動と育児を両立させるということ自体が理解しがたい。 窃盗などの犯罪行為を犯し、当局の調査を受けた者を工作員に養成して送り出すのも疑わしい。 百貨店で盗難をはたらき、盗んだ亜鉛を売っていたような窃盗犯を工作員として送り出すようなことは想像もできない。 「供述だけに依存」 朝鮮日報 ▼「気が小さいスパイ」なのか 捜査当局は、3年にわたって内偵を進めてきたというが、合同捜査本部が発表した内容のほとんどは、逮捕後の供述に基づいたものだ。 04年、中国にある北側の国家安全保衛部の拠点に、南側の情報機関関係者二人の個人情報などを提出し、二人が自分に「北の情報を求めてきた」と報告した。北側は当時、「その程度の資料なら渡しても構わない」と言いながら、精力剤に見せ掛けた毒薬を渡し、南側の情報機関関係者の暗殺を指示していたことが起訴状に記載されている。南側の情報機関の関係者に協力するよう指示しておきながら、その関係者の殺害を指示するというのは、理解に苦しむ。 その後も、情報機関の関係者を殺害するよう指令を受け、毒針や爆発物まで受け取っていたが、実際には殺害を試みたことがなかったことがわかった。しかし当局は、毒薬や毒針などの証拠物を確保することができなかった。 [朝鮮新報 2008.9.17] |