朝鮮の養老院制度 自立支援型施設 高い「QOL」 |
「大きな家族のようなもの」 【平壌発=鄭尚丘記者】朝鮮には高齢者のための養老院というコミュニティーがある。国がサービスを提供する。高齢者にとっての新たな生活空間、養老院のQOL(Quality of Life=生活の質)は高い。
起床時間は自由。田畑を耕すのも、面談も、将棋や囲碁などのレクリエーションも、散策も学習も意思に応じて行えばよい。酒もたばこも自由だ。養老院はあくまでも今までのライフスタイルを継承し、自立を支援する施設である。 平壌市人民委員会の養老院(1948年設立)で暮らすキム・インスクさん(77)は「なんの不自由もなく楽しい日々を過ごしている。ここに来てから体重が増えたくらい」と満足そうだ。 各道を中心に24ある養老院の中でも、この養老院の歴史が一番古く、今年でちょうど60周年を迎える。なんらかの理由により一人身となった高齢者(男性60歳、女性55歳以上)、135人が共同生活を送っている。衣食住が保障され生活必需品や嗜好品も国からすべて支給される。養老院での生活は平均で35年、100歳の長寿記録樹立者も出るほど安定している。ここでの生活は本人の希望による。したがって養老院では随時受け入れ態勢を整えている。 リ・ソンホ院長(44)は「国の恩恵に応えるために、高齢者たちは元気に長生きし、職員たちはこれをサポートする、あえて『義務』を語るのならば長生き以外にない」と話す。
135人の高齢者に対して各種専門学校を卒業した職員は50人。職員1人が高齢者3人のサポートにあたる計算だ。職員は、高齢者の状態に則した食事の提供、理髪、裁縫、洗濯などの生活援助から施設の管理、医療サポートなどを行う。日に2回の回診があり、病に倒れた場合、24時間体制の献身的な看護が施される。 それでも養老院が自立支援型と言えるのは、高齢者たちの自主性が最大限に尊重されているためだ。高齢者が自主運営する生活委員会がその最たる例である。 生活委員会は、日々の食事の献立から学習計画、親族との面談、レクリエーションに対する要望を総括して計画、実行する自前の組織である。27年目の生活を送るハン・ポビさん(86)は生活委員会の委員長を務める。 「暖かい季節になったから、川原でのハイキングを計画している。チャンゴもちゃんと持参しないと」
高齢でありながらも、いわゆる「介護度」はおおむね低く、基本的、手段的ADL(Activities of Daily Living=日常生活動作または日常生活活動)が高いのは、生活委員会が切り盛りする田畑と果樹園によるところもある。 「畑を耕すのはとても楽しい。収穫が毎年楽しみ。みんなができる範囲で田畑を耕してる」とハンさんは話す。生活委員会の判断で、参加は個人の自由となっている。生きがいの創造にもつながっている。 この養老院では毎日の食卓に国から支給される米(600グラム)や肉、野菜のほかに自分たちが育てた収穫物が並ぶ。 医療スタッフたちは「健康の維持、回復にいい影響が出ている。自分たちで育てた野菜や果物を食べるのは格別なこと。食欲増進にもつながる」と自立支援の立場から田畑での自主的な労働を肯定的に捉えている。 高齢者たちは閉鎖的に暮らしているわけではない。面談は自由であり、新聞やテレビなどを通して社会の動向にも詳しい。 このように養老院での生活は、入所者の志向と要求に合った高いQOLと、喪失しがちな自分たちの「場」を築き尊重できる空間となっている。「国家」と「個人」による共同保全のかたちと言える。 また、ここでの日々は職員と高齢者、共同生活を送る者同士が新しい絆を深めていく過程でもある。 「耳は遠くなったけど、みんなの愛情はとても近くに感じている」と言うハンさんの言葉に、リ院長は「養老院は一つの大きな家族のようなもの。実の息子になったつもりでもっと孝行に励みたい」と笑った。 [朝鮮新報 2008.4.23] |