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〈教室で〉 東京中高高級部 現代史 朴龍浩先生

朝鮮現代史をわかりやすく、家族史を通して身近に

現代史を熱く語る

 「朝鮮現代史を生徒たちにわかりやすく、正確に伝えたい」と話す朴龍浩先生(36)は、東京朝鮮中高級学校(東京都北区)高級部で1年生全クラス(6組)の現代史の授業を受け持っている。

 記者が訪れた日の授業テーマは、1945年に日本で解放を迎えた在日同胞たちの「帰国のための闘い」。

 解放当時、240万人いたといわれている在日同胞のうち、大半は祖国解放を喜び、家族の元へと帰ろうとした。

 「しかし、君たちは今、日本で暮らしている。それはなぜか。君たちのハラボジ・ハルモニが帰国をしたのか、しなかったのか。当時の状況を見てみよう」

解放直後の様子

授業に耳を傾ける生徒たち

 解放直後、在日同胞たちは山口県の下関や仙崎、福岡県の博多などの港町に詰め掛けた。45年9月に「朝鮮人帰国者救護会」が設立され、46年2月から「帰国希望者登録」が実施された。解放から7カ月後の46年3月までに約140万人の同胞たちが故郷に帰ったが、そのうちの多くの同胞たちが日本に戻ってくるという現象が起きた。土地を奪われ、家もなく、仕事もなく、生活の基盤を失ったために、仕方なくまた海を渡ってきたのだ…。

 朴先生の話を聞く生徒たちの表情は真剣だ。

 黒板には日本の地図と朝鮮半島の地図が描かれ、下関、博多、仙崎の各港に印がつけられている。

 「これらの港はすべて東海側にある。港に、多くの同胞が一度に詰め掛けたため周辺はごった返し、近くの公園や埠頭のテント、橋の下など、同胞たちは路上での生活を余儀なくされた。月日が流れるうちに商売を始める人、家を建てる人が出始め、朝鮮人部落が形成された。映画『パッチギ』にもあるように、正規の船を待ちきれず、小船を買い取り、自力で海を渡って命を落とした人もいる…」

生徒の家族史

「恩師は(同校の)梁淑子先生」と朴先生。赴任当時からアドバイスを受けている

 「なぜ、君たちは日本で暮らすことになったのだろうか?」

 朴先生は、昨年7月に収集した生徒たち(現高3)のレポートのまとめを配った。

 生徒@「私のウェハラボジは植民地時代、日帝反対のポスターを兄弟と共に貼っていたところ、連行され日本に来ました。解放後は朝鮮へ戻っても仕事があるかわからないので、ハルモニと一緒に営んでいた焼肉屋を続けることにしたようです」

 生徒A「ハラボジは『日本に行けば仕事がある』と騙されて強制的に連行されました。オモニの話によると、ハラボジは日本で働くうちに指をほとんど切断されてしまったそうです。病院にも行けず、仕事を続けなければならなかったと言います。ハラボジは私が3歳のときに亡くなったので記憶にありません。ハラボジの手は写真の中に残っています。そして、ハラボジは朝鮮学校を守るために闘ったと聞きました」

 生徒B「私の曾祖ハラボジは戦争へ行ったと聞きました。曾祖ハラボジは朝鮮で生まれ、日本に渡ってきました。日本での生活はとても苦しかったと言います。一日、二日何も食べずに過ごしたこともあるそうです。今、この生活があるのは曾祖ハラボジのお陰だと思っています」

 生徒C「解放当時、私のハルモニは済州島にいました。ハルモニは済州島4.3事件のときに自分の兄と一緒に密入国したのだそうです。生活状況はとても厳しかったようです。ハルモニは昔のことを話したがりません。なので、具体的にはわからないのです」

ポイントは追体験

 45分間の授業はあっという間に終わってしまった。宿題は、各自、自分の家族史を聞いてくること。授業終了後、生徒たちに感想を聞いてみた。

 金正Rくんは、「自分は知っていると思っていたけど、まだまだ知らないことが多いことに気づかされた。帰国を取り巻く解放当時の混乱や複雑な状況について、もっと勉強しなくてはと思った。それは、これから僕たちに必要なことだと思うから」と話した。

 また、李慶美さんは、「在日同胞がなぜ日本で暮らしているのか、具体的に考えたことがなかった。それを考えさせられるきっかけになる授業だった。朴龍浩先生の授業は教科書以外の資料も多く、私たちの知らない昔の状況をわかりやすく話してくれるので聞いていておもしろい」と語った。

 朴先生は、現代史の勉強は「文字や言葉の勉強になってはならない」と考えている。「身内、同胞、民族という人それぞれの体験を追体験し、少しでも身近に感じることが肝心だ」と捉え、歴史的な事柄や事件を立体的に考えられるよう豊富な資料を提供している。

 1世たちに比べると、被差別体験の少ない現代の生徒たちには、日本対朝鮮=差別する側、差別される側という単純な図式を押し付けるのではなく、グループディスカッションや紙上討論など、いろんな形の議論を通して考える力を伸ばしていくのが大切だという。

 高1の現代史で扱うのは、45年8月から53年7月27日までの激動の時代だ。

 「朝鮮現代史を生徒たちにわかりやすく、正確に、熱く伝えたい」。朴先生は、新たな研究成果の発表にアンテナを巡らしつつ、日々の授業に懸命に取り組んでいる。(金潤順記者)

※1972年生まれ。群馬朝鮮初中級学校、東京朝鮮中高級学校、朝鮮大学校歴史地理学部(当時)卒業。東京朝高現代史教員。現在、1年1組担任。柔道部顧問。模範教授者。05年、07年東日本教研論文賞、06年中央教研論文賞。中央教研高級部社会分科分科長。

[朝鮮新報 2008.10.24]