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「コリアン学生学術文化フェスティバル07」発表論文 「学校保健、朝鮮学校の現状〜京都の事例をもとに」

今後の取り組み

 現在、京都で行われている取り組みについて着目したが、これを全国の朝鮮学校においても実践していくことは可能ではないだろうか。まず、保健室を学校内に設置することが第一の課題として考えられる。次に、京都朝鮮第2初級学校を模範例として、養護教諭にボランティアとして来てもらうことも現時点での解決策と考えられる。

 取り組めること

学習会「ウリハッキョの学校保健を考える」の集合写真

 朝鮮学校が養護教諭を雇用することが難しいことは、「保健室の問題」の部分ですでに触れた。しかし、何か代わりとなる案がないかと模索した結果、「健康システムコーディネーター」という案に至った。健康システムコーディネーターとは、「健康なこども」という雑誌を発行している日本生活医学研究所が主催し、認定を行っている民間の資格で、200人以上の人がこの資格を有している。この資格を取得するためには、5回の日本学校保健研修会への参加、4回の「健康な子ども」への論文応募、そして3回の実習、最後に面接を行う必要がある。

 研修会は、年に2度行われており、取得には最短で3年が必要になる。また、併せて雑誌の講読をする必要がある。この資格の利点は、新たに大学や専門学校に通うことなく、働きながら取得できるという点である。そして、研修を通して、養護教諭に相応する知識を身につけることができる。受験資格は、学校保健に関わるものであれば誰でもいいという点もある。しかし、いくつかの欠点も考えられる。

 それは、時間がかかることである。また、ただでさえ仕事の多い教員にとって、雑誌の講読や論文執筆、研修は大きな負担となるといえよう。そして、資格取得のためには研修会の費用や雑誌購読の費用などを合計して、およそ10万円が必要となる。このようにいくらかの時間や費用は要するが、すべての学校に学校保健の知識を持った教員を配置し、朝鮮学校の学校保健を整えていくことができる打開策として、健康システムコーディネーターという資格を提示することができる。

 ほかにも、近隣の日本学校との連携が考えられる。日本学校に朝鮮学校の置かれている現状を知ってもらうこと、また朝鮮学校が日本学校での取り組みを知ることによっても、学校保健を取り巻く環境は改善されるのではないのだろうか。

 学生ボランティア

 学校保健の必要性、そして朝鮮学校の現状を踏まえたうえで、私たち学生が取り組めることを考えてみたい。

 近年の日本社会では、児童が「食」についての正しい知識を身につけることが難しい状況にある。そんな中、私たち学生が学校へ赴き、食育などを、例えば劇を通じて行い、食の大切さを伝えることができれば、それは保健教育の大切な一環になるだろう。また、外部の人と関わりを持つことは、児童にとってもいい影響をもたらし、学校全体の意識向上にもつながるのではないだろうか。

 ほかに、障がいのある児童に対するサポート体制として、より多くの学生がボランティアとして関わっていくことも期待される。学生ボランティアの存在は先生達の負担を軽減するだけでなく、個別対応を行うことで児童の学力向上やコミュニケーション能力の強化へつながる。そのような児童の変化は、実際に現場の声としても上がっている。とくに医療・福祉分野を専攻する学生が、ボランティアとして携わり自身の専門知識等を活かすことで、朝鮮学校の環境改善に貢献することができると考えられる。

 また、私たち学生による外部への働きかけも、今後取り組める活動として挙げることができる。例えば保健所へ赴き、どのような事業を行っているのかなどを調べたり、日本学校の保健室見学や養護教諭へのインタビューなどを行ったりすることができる。このような活動を通して得た情報を、朝鮮学校に提供していくことも朝鮮学校の学校保健を支えていく取り組みとなるのではないのだろうか。

 行政への働きかけ

 朝鮮学校の学校保健が未だ解決されていないのは、行政の不当な扱いによる部分が大きい。根本的な解決を目指すためには、やはり行政との直接交渉を行っていく必要がある。現在京都では、同胞や日本の弁護士の方々が朝鮮学校の学校保健問題に関する学習会を行っている。そして、健康診断に必要な費用のための予算の計上、保健室設置、養護保健教員の配置、学校医の配置に対する補助等を要求事項として、行政への要請活動に向けて着々と準備を進めている。

 このような働きかけにより、今すぐに学校保健の問題を解決することは難しいかもしれない。しかし、今まで同胞たちが行ってきた取り組みにより、さまざまな問題が解決されてきた。京都朝鮮第1初級学校のスクールゾーンが整備されるようになったことも、取り組みによる成果のひとつである。これらの経験からみても、行政に対する働きかけにより、問題解決への重要な足がかりを得ることができるのではないだろうか。

終わりに

 今回この論文を通じ、朝鮮学校の置かれている厳しい現状に改めて気づかされた。朝鮮学校は在日朝鮮人の民族の代を繋いでいくという大切な役割を担っている。60年以上もの間維持してきた朝鮮学校に、今もなおたくさんの児童が通い、未来へと民族教育を繋いでいる。そのような児童たちを守っていけるのは、ほかではない私たち同胞である。そして、依然として存在する学校保健の問題は、児童たちを守るために最も優先して解決されるべき問題である。

 学校保健は児童の発育と健康を守り、正しい知識を提供するものとして、欠かす事のできない重要な存在である。さまざまな制度的理由により、未だ解決を阻まれているが、京都の朝鮮学校における取り組みから、学校保健が整っていなくても、働きかけにより環境は大きく改善されることを知った。そして、働きかけを行っていかなければ、何も変わらないということを強く感じた。

 また、インタビューを通じ、多くの方々が朝鮮学校を支援する活動を行っていることにも気づいた。日本学校と比べると、やはり朝鮮学校にはまだまだ足りない部分が多いと感じる。しかし朝鮮学校には、同胞や教員、保護者による温かい支援と熱い想いが、深く根づいている。助成も制度もないなりに、児童たちを守ろうとし、それを実現できているのは朝鮮学校の誇れることである。そういった誇れる部分を残しつつ、学校の環境を改善していけるなら、より良い教育を行うことができる。もちろん環境が整っただけでは意味がない。熱い想いと、環境の両方が合わさって、初めて本当の「教育」を行うことができる。

 最後に、この論文作成に協力してくれたたくさんの方々に、改めて感謝の言葉を述べたい。私たちの力だけでは、この論文を書き上げることはできなかったであろう。そして、協力してくれた方々のためにも、現在朝鮮学校に通う児童たちのためにも、一日でも早く、朝鮮学校に学校保健というより良い環境を整えていき、朝鮮学校の処遇を少しでも改善させていきたいと願っている。この学校保健の問題が、きっと解決することを信じ、私たちはこれからも取り組んでいきたい。(KS医療・福祉ネットワーク京都グループ論文)

[朝鮮新報 2008.4.2]