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「コリアン学生学術文化フェスティバル07」発表論文 「学校保健、朝鮮学校の現状〜京都の事例をもとに」

問題の原因

 根本的な原因は、朝鮮学校が学校教育法上の第1条に定める「学校」(いわゆる「一条校」)ではなく、第83条に定める「各種学校」に位置づけられているためである。これに起因し、朝鮮学校が享受してしかるべきさまざまな権利が制度的に奪われている。学校保健に関連する法律(学校教育法と学校保健法)により、原因を見ていく。

学校教育法から

京都、大阪、兵庫の発表が終わった後、意見交換を行った

 学校教育法第12条では、「学校においては、別に法律で定めるところにより、学生、生徒、児童及び幼児並びに職員の健康の保持増進を図るため、健康診断を行い、その他その保健に必要な措置を講じなければならない」としており、また第28条では、「小学校には、養護教諭を置かなければならない」、第40条においては、「第28条の規定は、中学校にこれを準用する」と記されている。そして、第51条の8では、「中等教育学校には、養護教諭を置かなければならない」と記されている。しかし、朝鮮学校は各種学校として規定されており、上記の法は準用されない。それを根拠に、朝鮮学校に対する助成は行われておらず、全くのボランティアにより健康診断が行われている。そして、養護教諭の配置もなく、学校保健に必要な措置は講じられていない。

学校保健法から

 学校保健法の第1条において「この法律は、学校における保健管理及び安全管理に関し必要な事項を定め、児童、生徒、学生及び幼児並びに職員の健康の保持増進を図り、もって学校教育の円滑な実施とその成果の確保に資することを目的とする」と規定されている。そのほかにも、健康診断や保健室、伝染病予防、学校医についてなど、学校保健に関連したさまざまな事項が定められている。そして、第22条には「専修学校には、保健管理に関する専門的事項に関し、技術及び指導を行う医師を置くように努めなければならない」と記されている。つまり、学校保健法は専修学校においては準用されるが、各種学校である朝鮮学校には準用されない。

 これらの法律により、朝鮮学校は制度的に日本学校と区別され、学校保健の対象から除外されてきた。その結果として朝鮮学校は、学校保健に関する知識を得る機会を失い、学校保健に対する意識の低下という現状を招いている。

京都第1初級

 京都朝鮮第1初級学校では同胞たちの寄付と働きかけにより、昨年10月に初めて保健室が設置された。それは、京都市による学校施設設置予算の話が発端であった。4年程前に、京都市から学校トイレの改修工事のための学校施設設置予算が日本の学校に支給された。しかしそのような助成は朝鮮学校に対しては全く行われなかった。その事実を知った同胞たちが、朝鮮学校にも予算を割り当ててほしいとの申請を京都市にしたところ、申し入れが却下された。不当な扱いを受けながらも、予算が下りないのなら自分たちで環境を良くしていこうと、伏見青年商工会の同胞たちが寄付を募り働きかけた結果、トイレの改修工事がなされるようになった。そして、次に児童のために何ができるのかを考え、保健室を作ろうという動きに発展した。

 それまで同校では、体調が悪いときには校長室のソファーで横になるなどの処置がなされていたため、保健室設置によって体調の悪い児童はそこで休めるようになり、保護者も安心できるようになった。かつて図書室等で行われていた健康診断も、保健室で行えるようになった。また、伝染病が発生した場合の措置として、保護者あてに伝染病に関する手紙を送っている。学校側も伝染病に関してはとくに注意を払い、疑わしい症状があればすぐに病院へ連れて行くよう心掛けている。インフルエンザの予防接種も、希望者に対して、毎年学校で行うようにしている。

 このように、同校では少しずつ学校保健を取り巻く環境は改善され、学校側や同胞たちの努力を窺うことができる。しかし、養護教諭もしくはそれに代わる先生がいないという問題が依然として解決されていないため、保健室は設置されたものの、現段階では充分に活用できているとはいえない。

京都第2初級

 京都朝鮮第2初級学校では、開校以来、保健室がなかったが、05年6月に初めて設けられた。それを契機に日本学校で養護教諭をしていた方がボランティアで朝鮮学校を訪れ、学校保健の仕事を手伝ってくれるようになった。設置当初は週に一度、今では週に二度ボランティアをされている。その先生は以前から、同校前校長と家族ぐるみの親しい付き合いがあり、数年前から運動会の救護ボランティアもされていた。退職後、何か手伝えることはないかと模索されるうちに、オモニ会が物置部屋を改装し、ベッドなどを持ち込んで手作りの保健室を整備した。その働きかけに感銘を受けたのがきっかけで、ボランティアを続けられている。従来、専門知識のある教員がいなかっただけに、適切な応急処置のできる養護教諭の存在は大きく、児童や教職員らは「安心できて頼りになる」と歓迎している。

 そのほか、数回にわたり、オモニ会のための健康をテーマにした研修会を開き、医務室便りも発行されている。また、新たな取り組みとして、全校生徒に対して、保健の授業が行われるようになった。授業は、ひと学年に対して、学期ごとに1回、年間3回が行われる。また、07年10月には、教員たちに対しての学校保健に関する研修会も行われた。学校で発生しやすい伝染病について、そしてそれらの分類、対処法などが主な内容であった。

 このような取り組みによって、以前とは比べものにならないほど充実した学校保健が整えられるようになった。養護教諭の方も「したらしただけ喜んでもらえるので、こちらもうれしい。素直な朝鮮学校のこどもたちにいつも元気を分けてもらっている。体力の続く限り、続けたい」と話されている。このように、ひとりの養護教諭の力とほんの2年半足らずの働きかけによって、多くの成果を得ることができた。

医協の取り組み

 在日本朝鮮人医学協会(医協)の取り組みとして、朝鮮学校での定期健康診断が挙げられる。1987年12月に「在日朝鮮人学校の学校保健診断の手引き」が発行され、朝鮮学校での定期健康診断が体系化されるようになった。医協では健康診断の結果をデータ化し、児童の発育及び健康状態を客観的に把握できるようになった。そのほかにも、感染症発生時の情報提供などが取り組みとして挙げられる。また、注目すべきものに、兵庫での「担当看護師制度」がある。これは1997年に発足されたもので、兵庫県下の朝鮮学校全学校に、1校につき1人の担当看護師を配置する制度である。担当看護師は、月に1度学校を訪れ、保健教育(主に、性教育)と校内衛生点検を行っている。この制度により、生徒や先生、保護者との信頼関係を築くことができ、保健に対する悩みを身近に相談することができるようになった。

 このように、朝鮮学校による取り組みに加えて、医協などの同胞によっても朝鮮学校の学校保健は支えられている。(KS医療・福祉ネットワーク京都グループ論文)

[朝鮮新報 2008.3.26]