〈論考G〉 米国の対朝鮮経済制裁 |
実施によって不利益あれば解除も 米国は、1950年に朝鮮に対して経済制裁を発動して以来、今日までテロ支援国、共産主義国、ミサイル技術管理レジーム(MTCR)非参加国など、さまざまな理由で幾多の対朝鮮経済制裁を発動してきた。しかし、これら経済制裁の効果については、一般的に多くの否定的見解が示されている。実際、米国は朝鮮に対し経済制裁を実施しているが、達成された効果は希薄なものでしかない。 では、なぜ米国はこのような経済制裁を長年に渡り実施しているのか。 それは、経済制裁実施の費用、不利益が皆無に等しかったからである。言い換えれば、経済制裁発動後に、何かしらの費用が発生すれば、それは解除されるということである。 過去の米国による中国やベトナムに対する経済制裁の緩和、解除に関する過程を検証すると、経済制裁の諸費用のうち主なものは、安全保障上の費用と市場逸失による経済的損失の費用である。
現状、米国は、朝鮮による核実験実施によって安全保障上、莫大な費用を被っており、そのため「テロ支援国」指定解除、「敵性国」交易法適用解除という制裁解除措置を実施することになったと考えられる。 さらに、市場逸失による経済的損失の費用が生じれば、米国による経済制裁解除の流れは加速度的に進むことになるであろう。その点で今回の「テロ支援国」指定解除の意義は大きい。テロ支援国を適用対象とする制裁解除に対してだけでなく、大量破壊兵器拡散憂慮国などを対象とする制裁の解除にも影響を及ぼす可能性を有しているからである。 大量破壊兵器拡散憂慮国などを対象とする制裁には、朝鮮と一定の関係を有する外国企業などに制裁を発動する内容が含まれており、少なからず朝鮮の対外経済活動を制限する効果を有している。 米国が大量破壊兵器拡散憂慮国と指定するのは、MTCRなど諸国家間の取り決めや活動に非協力的であることを一つの根拠としているが、これらの諸国家間の活動は、テログループ、テロ支援国への武器などの流出を防ぐことを表向きには一つの重要な目的としてきた。 従って、朝鮮は、これまで米国によって「テロ支援国」であると指定されていたために、これらの活動、取り決めに非協力的であるとされ、大量破壊兵器拡散憂慮国として米国の定めた制裁を受けてきた。 従って、「テロ支援国」指定解除は、米国自体が朝鮮を大量破壊兵器拡散憂慮国として取り扱ってきた従来の政策を変えることへと繋がる可能性を生み出したものと言えるし、朝鮮にとっては、それによって、米国以外の他国の企業との関係拡大を積極的に行うことの出来る一定の条件を充たす可能性を獲得したものとも考えられる。 「可能性」と現状 しかし、これらはあくまで「可能性」の話。米国が朝鮮に対して発動している残りの経済制裁を解除しなければならないほど追い詰められていなければ、「テロ支援国」指定解除による「可能性」は顕在化されない。 だが昨今、朝鮮が米国に背を向け南朝鮮、中国、ロシアなどとの関係を拡大してきた過程は、間違いなく米国に対して経済的損失をはじめとする多くの費用を与え続けているのであり、その点で大量破壊兵器拡散憂慮国に対する制裁が緩和される可能性は小さくなさそうである。これが実際に実現されれば、朝鮮の対外経済活動もより一層活発に行われるであろうし、それによって米国が負担する経済的損失の費用もより大きなものとなる。 朝鮮が米国に背を向け、米国が必死に朝鮮へと接近していかなければならない状況が構築されつつある。(洪忠一、朝鮮大学校政治経済学部助教) [朝鮮新報 2008.11.17] |