〈論考B〉 混迷深まる金融危機 |
「カジノ資本主義」の産物 サブプライム問題に端を発した米国発の金融危機。その深刻さは、「1930年代の世界大恐慌以来の危機」「100年に一度の危機」ともいわれている。まさに、大恐慌の悪夢もぬぐえない事態といって過言ではない。 国際通貨基金(IMF)は一連の金融危機で、世界の金融機関が抱える損失額が推定1.4兆ドル(約143兆円)に達するとの見方を明らかにしたが、この時点においても金融機関が持つ資産の価値がどこまで下がるのか判断しかねる状況にあり、どれだけの損失が出るのか、実際のところはまだ不透明である。深刻な金融不安を背景に株安は全世界に広がり、金融機関の相次ぐ破綻にまでつながっている。 最近の相次ぐ金融機関の破綻経路をみると、「不動産バブルの崩壊=サブプライムローンの破綻→金融機関への損失額の膨張→金融機関の財務内容に対する不信感の増大→金融機関からの貸し手、取引先の引き上げ→資金繰りの行き詰まり→経営破綻」という構図だ。 要するに、危機の原因は住宅バブルと、リスクを度外視した金融機関の活動にある。振り返ってみると、80年代の企業合併・買収(M&A)バブル、その後、90年代のITバブル、そして今回の住宅バブルなど、繰り返されるバブル経済の崩壊が招いた結果なのだ。 とりわけ、今回の金融危機は、米国がITバブル崩壊のショックを乗り切るため政策的に住宅バブルを起こしたことに、その根源があるとの見方もある。返済能力の乏しい人たちに、住宅ローンを押し付ける無謀の上に相場を張る一種のカジノにほかならない。まさに新自由主義的グローバリゼーションが招いた、いわば「カジノ資本主義」の産物といえる。 世界同時不況の可能性 深刻なのは、金融危機と実体経済の不振が連鎖的に悪循環を伴いながらその深刻度を増してきていることにある。 世界的な景気後退のなか、原油の高騰により物価の急速な上昇も加わり世界経済は、あきらかに景気後退と物価上昇が同時進行するスタグフレーションの様相をみせている。そこへ深刻な金融危機が重なり、まさに危機の連鎖に陥りかねない状況にある。 最大7千億ドル(約75兆円)の不良資産買い取り制度などを柱にした金融救済法案が米議会で可決されたが、その実効性に悲観的な見方も根強い。金融救済法は金融機関の破綻の防止には一定の効果があっても、住宅ローンの焦げ付きという金融危機の根っこにある根本原因には直接の効果はないからだ。危機の深刻化による崩壊は回避できても危機は残る構図である。 まして、米景気はすでに急テンポで減速し、株価や不動産価格の下落などで個人消費や企業の設備投資は息切れしている。失業率も5年ぶりの高水準(6.1%)が続き、来年は7%台に上昇する可能性が高い。失業増は住宅ローンの焦げ付き増に拍車をかけ、金融危機を長引かせる。金融市場では先行き不安にかられた金融機関が貸し渋り、資金繰りの悪化が続く。このようにして金融危機が実態経済をむしばみ、それが危機を深めるという悪循環をおこしかねない。そのうえ、米国の財政赤字はすでに過去最悪水準に急増中、不良債権の買い取りによる財政悪化で、ドル安が加速する危険性も抱えている。 30年代の大恐慌時のような転換期ともいわれ世界的金融再編にせまられている現状のなか、景気後退が鮮明になりつつある欧州や日本経済への波及は必至であり、今後金融不安がいっそう深刻化し、世界同時不況へと展開していく可能性が大きいと予想される。(池永一、朝鮮大学校教授、社会科学研究所所長) [朝鮮新報 2008.10.14] |