福岡・長寿の家「故郷」 いつも笑顔満開、「もう一つの故郷」 |
民族愛、同胞愛が行き交う
総連福岡支部が主催する高齢同胞福祉事業(ミニデイサービス)長寿の家「故郷」が開設3周年を迎えた。65歳以上の地域の同胞たちを対象に、月に2回、健診診断と健康体操、各種ゲームや創作活動が行われている。 地域では日毎に反響が大きくなり、今では当初の予想を超える約70人が登録している。毎回40人を超える利用者たちで盛り上がり、笑顔が溢れる「故郷」は、民族愛、同胞愛が行き交う同胞たちの繋がりの場、「もう一つの故郷」になっている。 友人と会って楽しく 「故郷」利用者の中には、以前に比べ元気になったという同胞たちが多い。 「故郷」にやって来ると、利用者たちはまず健診を受ける。血圧、体温、酸素濃度を毎回記録し健康状態をチェックする。その後、指運動、顔面マッサージ、屈伸運動など約一時間かけて健康体操を行う。指導するのは20代、30代の青年たちで、それぞれ自ら研究した体操を交代で取り入れ、利用者がそれに倣う。 利用者の金基台さん(72)は「体操を続けているうちに腕がよく上がるようになった」と語る。親友の具日順さん(74)は、病院をキャンセルして参加したと言う。「ここに通うようになってから体の具合が良くなって医師に褒められた」とうれしそうに語る。 健康の秘訣は「笑い」
利用者であり「故郷」の所長でもある李相周さん(73)は「『故郷』に来ると自然に笑いが出る。老人たちを孤独から解放させてくれる」と語る。 利用者らは友人と会い、生活や政治情勢、地域の動向について話し合い、喜びや悩みを分かち合う。「故郷」ができてから高齢同胞たちが「元気になった」「若返った」と評判だ。 「故郷」に通って1年の金慶徳さん(74)は「一日中、家にいると笑うこともないが、ここへ来れば友だちに会って楽しく過ごせる」と語る。夫婦で参加している辛正寿さん(73)は「妻とは何十年も一緒なので家では言葉を交わす回数も減ったが、ここに来るようになって朝鮮語で話したり笑ったり。家に帰っても話の種になっている」と語る。 金基台さん、具日順さんもやはり、「楽しく遊べ過ごせるのでいつも笑顔」と口をそろえる。 実際、「故郷」はいつも高齢同胞たちの笑顔でいっぱいだ。まるで子どもたちが学校で遊んでいるかのように、表情が活き活きとしていて明るい。関係者らは「健康の秘訣」だと実感している。 苦難を乗り越え
「故郷」は、在日朝鮮人が集まって住む福岡市東区の通称「金平団地」内にある、以前の福岡朝鮮初級学校付属幼稚園の施設で行われている。 李所長によると、ミニデイサービスは当初、団地に暮す祖国を愛し同胞社会と学校を守ってきた総連の顧問たちを対象に、感謝を込めて恩返しをしようと、若い世代が中心となって着手した。 団地が2階建ての長屋だった頃は、互いに声を掛け合い家庭の事情も伺えた。鍵も開けっ放しだった。だが高層マンションに建て替えられてからは、隣同士でも会う機会が減り近所付き合いも減った。とくに住民が高齢化するなか、なかなか外に出られない独居老人も増えた。そうした状況を踏まえて開設された「故郷」は、高齢者とその家族のニーズに応え悩みを解決してきた。 利用者が友人に声をかけ一緒に参加するようになり、その数は倍増した。なかには民団や総連組織を遠ざけていた同胞もいる。 当初、彼らの間には壁ができ、あらそいも起きたという。しかし、同じ民族という情がその壁を崩した。今ではそうしたこともなくなり、同じ地域の同胞として一緒に楽しい時間を過ごしている。 青年たちが中心となり運営 「故郷」の運営は、20代、30代の青年たちがボランティアで担当している。大半が朝青世代。作業療法士、管理栄養士、看護師、体育講師、音楽講師など有資格者、専門家たちがおり、そのなかには活動家、学校教員、朝大・朝高卒業生、日本学校卒業生、日本人もいる。彼、彼女らが健診と健康体操から1日の課程をすべてこなす。活動に使う道具も手作りだ。昼食時には女性同盟の女性たちが朝鮮料理でもてなす。 利用者たちにとっては、孫世代になる若者たちが自分のために奉仕してくれるということがたまらなく嬉しいようだ。 情熱的な若者たちだが、専門知識がなく苦労も重ねてきた。開設当初、ある看護師の指摘が今も忘れられないという。 「この状態で運営を続けたらここで老人が死んでしまう」 「故郷」の施設は、幼稚園だった古い施設を使っているので段差が多く衛生設備も不足していた。数十人が一斉に階段を上り下りしゲームも行われるが、それを支える人手が足りなかった。 「確かに情熱だけでがんばっていた面がある。しかし、スタッフみんなが自覚を高め、知識を習得し、経験を積んできたので、今日まで運営してこられた」と関係者は語る。 国籍、出身、学歴に関係なく、同胞のために各自が持つ力と知恵を捧げる−これが「故郷」のスタイル。若者の情熱と創造性、専門家の知識と経験が結びつき蓄積され、現在の「故郷」の運営方針が確立した。 辛正寿さんは「普通は誰も老人のために働きたがらない。でもここの若者たちは報酬も望まず、ただ私たちのために奉仕してくれる。こんな若者はどこを探してもいない。民族教育の賜物だ」と力説する。 財政、人材確保、安全で広い場所への移転など、前途にはまだまだ課題と難関が立ちはだかる。しかし、行政側との交渉を進め、それぞれが「できる仕事」を引き受けて活動している。同胞の笑顔が溢れる場、「もう一つの故郷」を守るため一歩ずつ前進している。 リーダー的存在、作業療法士の張貞美さん スタッフの中でリーダー的な存在の作業療法士・張貞美さん(30)。「故郷」に来るまでは障がいを持つ子どもたちを対象に働いていた。朝青活動家の同級生の誘いで活動するようになったが、高齢者を対象にするのが初めてだったので右往左往する時もあった。責任感の強い彼女は職場を介護老人保健施設に移してまで経験を積み、それを「故郷」に活かした。 高級部2年生まで「金平団地」で生活した彼女は、利用者と小さい頃から面識があるので「故郷」に来るのが楽しみだという。そんな彼女は高級部の時、祖父母を亡くした。「たくさん話しを聞いていろいろしてあげたいこともあったのに、それに気付いたのは大人になってからだった」。だから、「故郷」で自分が取得した資格を活かし、幼い頃に面倒を見てくれた同胞たちのために働くことがやりがいになっている。 初めは高度で専門的な活動を目指しすぎて悩みが絶えなかった。しかし、みんなが一緒に楽しむことが何より重要であり、「それぞれができること、それぞれができる分だけ」手伝うことが先決であると気付き、肩の荷が降りたという。 ある日、健康体操の途中にある利用者の女性が手をあげてこう言った。 「私はこの子(張さん)を幼い頃から知っていて面倒も見てあげた。今は私のため、私たちが楽しめるように一生懸命やってくれている。本当にありがたい」 思いがけなく感謝の言葉をかけられた張さんは「自分が楽しくてやっているだけなのに」と涙があふれたという。 「故郷」で活動することで同胞たちの繋がりの大切さを知ったと語る彼女は、「『故郷』は同胞たちが気軽に集まって楽しむ場、まさに同胞たちの故郷」と笑顔で語る。(李泰鎬記者) [朝鮮新報 2008.6.13] |