〈point de vue 私はこう見る-4-〉 船場吉兆廃業 |
小さな妥協積み重ね、大きな失敗へ 消費期限切れの食品販売や食材の産地偽装、「ささやき会見」などで、すっかり有名になった船場吉兆。食べ残した料理をほかの客に提供していたという事実も発覚。廃業に追い込まれた。 経営問題として捉えると、注目すべき局面が二つある。 ひとつは、不正発覚後の対応の局面。 使いまわし問題まで含めて、一連の不正行為は、顧客や大衆を裏切る詐欺行為であった。 しかし、さらに重大だったのは、経営陣の稚拙で無責任な対応だった。 船場吉兆経営陣は、不正が発覚した際、まず、従業員に責任を押し付けた。不正発覚後、積極的な情報開示を公約したにもかかわらず、料理の使いまわしについては隠していた。 失敗に失敗を重ねると、もはや生き残るのは困難だ。 もうひとつの局面は、不正の発端。 1991年、吉兆は創業者の息子や娘婿が社長を務める料亭5社のグループ体制へ移行した。 折しも、バブル崩壊直後。グループ各社は、高客単価の法人需要が見込めない、厳しい経営環境を行きぬく必要に迫られた。 大阪の船場店と福岡の天神店を継承した船場吉兆は、事業拡大と多角化の戦略で厳しい環境に対応しようとした。2つの支店を出店、百貨店に惣菜店も開いた。 新規投資の回収のために、収益重視へと傾斜し、料理への妥協が進んだ。 売上確保のために、それまでの対応能力の限界を超えた量の注文も受け付けた。禁止されていた既製品の利用を許可した。 また、食材の質も低下させた。やがて、手付かずで残された料理はまかないのために取り分けておくようになった。それを「温めなおして出せ」という指示がでるにはそれほど時間はかからなかったという。 小さな妥協が積み重ねられ、大きな失敗へと突き進んだ。 この過程は創業理念からの乖離の過程でもあった。 創業者が掲げた経営理念は「一期一会」。その機会を、二度とは巡ってこない一度きりのものと心得て、その時の精いっぱいの誠意と最良の料理でもてなす。この精神を基礎に料亭の最高峰としての名声が築かれた。 船場吉兆は吉兆ブランドに頼りながらも、基礎となる理念を失っていった。 さて、船場吉兆の教訓はなにか。 外部環境が悪化した時や事業拡大期には、失敗につながるさ細な妥協が潜んでいるかもしれない。そういう時こそ、創業理念に立ち返り、理念的に判断し、行動するということだろう。 それでもなお、失敗は起こりうる。失敗に失敗を重ねることだけは避けたいところだ。(趙丹、朝大経営学部助手) [朝鮮新報 2008.6.2] |