〈point de vue 私はこう見る-1-〉 食品の偽装問題 |
「日本的モラル」の崩壊 昨年頃から食品偽装事件が頻発している。不二家の期限切れ商品の販売を皮切りに、石屋製菓の「白い恋人」の賞味期限改竄、ミートホープの牛肉偽装、比内地鶏の偽装、伊勢の「赤福」の製造日・消費期限不正表示、船場吉兆の消費期限不正表示・食材使い回しなど、次々とさまざまな偽装が明るみに出ている。なぜ、こんなにも多くの食品偽装が行われているのか。また、なぜこの数カ月間にいっせいに発覚したのだろうか。 食品業界では、過去においても数多くの不正事件が発生した。そのつど、問題解決のために企業内では情報公開やコンプライアンス(法令遵守)の確立など内部統制重視経営が叫ばれ、立法府では消費者の強い批判のもと規制法の整備強化を図ってきた。しかし、今なお不正は後を絶たない。
その原因を考えると、第一に、企業内でのトップマネジメントのコンプライアンス確立についての認識不足と、あまりにも強い企業利益優先的な経営姿勢があること。第二に、法律の規定内容と食品行政の監督姿勢が企業寄りで消費者軽視の運営であったこと。第三に、消費者自身においても食品の多様化、高度加工化に振り回され不当性を見抜くことが困難になっていることなどがあげられる。 ここで注目すべき点は、なぜこの時期に食品偽装が連続的に発覚したのかということである。そのほとんどは内部告発によって発覚したといわれている。 偽装というものは、そもそも企業などによって組織的に行われた場合には、外部からの法律によるコントロールは非常にむずかしいものである。また、利益をあげるという営利目的に沿う限りは、内部からのチェックも効きにくくなり、メンバーが組織の設定した目標に忠実であればそれだけいっそう、組織的な偽装は固く隠蔽されることになる。つまり、内部告発がない限り発覚する可能性がきわめて低いのが食品偽装の特徴のひとつと言える。 では、なぜ内部告発がおこなわれるようになったのだろうか。 告発の動機については、正義感や個人的な恨みなどが挙げられるが、その背景には、「日本的モラル」の崩壊があると考えられる。日本では「お世話になっている会社を密告するのか」といった、内部告発に対するマイナスイメージがあり、また社会全体の利益よりも自分に近い個人や組織の調和を大切にする風潮、つまり「日本的モラル」というものがある。 しかし近年、規制緩和・グローバリズムといったネオリベラル路線の下、企業は厳しい低価格競争を勝ち抜くため徹底したコスト削減を行ってきた。その結果、終身雇用・年功序列などの「日本的経営」が崩壊し、それまでにあった日本的「和」が良い意味でも悪い意味でも希薄化してきたといえる。したがって「偽装ラッシュ」は、それまで隠蔽されてきた不正が「日本的モラル」の崩壊などによる内部告発によって暴かれる事態が頻発した現象にすぎないのではないだろうか。 偽装防止策として第3者機関による検査などがあるが、最終的には経営者と従業員による倫理観やコンプライアンス能力にかかっている。モラルなき経営に未来はない。 それにしても日本という国は食品偽装、耐震偽装、偽装請負、年金偽装、納豆のデータ捏造、「名ばかり管理職」など偽装好きの「偽装大国」である。(徐達成、朝鮮大学校経営学部講師) [朝鮮新報 2008.5.12] |