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〈同胞介護 各地の取り組み 下〉 潜在力引き出し、人材育成、確保

 「福祉コース」を卒業した1期生2人が活躍する、愛知の取り組みが興味深い。

 愛知では昨年7月に「NPO法人コリアンネットあいちボランティアネットワーク・ポランティア(ポラム〈やりがいの意〉+ボランティア)」が発足した。子育て支援や高齢者福祉、ムジゲ会活動、通訳、翻訳事業とその活動領域は多方面だ。母体はあいちムジゲ会。

 注目されているのは独自の「ポランティアカード」を作り、ボランティアの登録制を導入したことだ。現在20人が登録を済ませており、随時募集をかけている。

 発足のきっかけは、より広範な活動がニーズとしてあったためだ。

 「あいちムジゲ会の活動を通して、ボランティア活動に積極的な学生たちが多数生まれた。ボランティア活動に必要不可欠な土壌はできたが、ボランティア、イコール障がい者支援に固定化されるという問題も内包していた」と「ポランティア」の陣頭指揮にあたる金順愛事務局長(総連愛知県本部権利福祉部長)は話す。

ことによって、県内の学校、朝鮮大学校、地域の間で、人材の発掘と育成が繰り返される相関図を描くことが可能になり、そのモデルケースを築いた。

 今後「ポランティア」では、夏季保育、福祉に関する授業や家庭科などの課外授業、同胞高齢者へのレクリエーションを実施するなど継続的で多彩な活動を予定している。必要な人材は「ポランティア」の登録者からあてられる。

総連福祉活動への期待

 介護を求めるカタチは明確に移行している。

 内閣府政策統括官(企画調整担当)の「高齢者の健康に関する意識調査結果」(2003年5月)によると「介護を頼む相手」が1996年と2002年で大きく変わったことがわかる。自分の「子ども」「子どもの配偶者」に介護を求める割合は71.4%から52.8%、38.2%から25.3%にそれぞれ大幅減、代わって「ホームヘルパー」に寄せる期待は12.5%から19.1%に増大した。

 また、日本各地の10代から80代284人(男性130人、女性154人)の同胞を対象とした「高齢社会についての在日同胞の意識とニーズに関するアンケート調査」(朝鮮大学校短期学部、2006年7月)によると、「同胞による同胞のための高齢者福祉施設があったほうが望ましい」と回答したのは全体の89%(非常に思う、少し思う、も含む)に上り、「家族」「自身」が介護が必要になったらどうするかの設問に対して「同胞のための施設が近くにあればそれを利用する」がそれぞれ48%、39%でトップ、次いで「少し遠くても同胞施設を利用する」がそれぞれ14%、15%で、「近くにある日本の施設を利用する」(それぞれ13%、14%)を上回った。

 「総連の福祉活動について」は「非常によいこと」との回答が73%で、福祉活動へのニーズはよりいっそう深まることが伺える。現世代の回答と鑑みれば、少なくとも今後50年に渡り、その需要は高まり続けると考えることもできる。

日本人より強い「孤立感」

 大阪市生野区のある地区在住の高齢者494人(有効回答、日本人221人、在日コリアン204人)を対象にアンケート調査した「在日コリアン高齢者の健康に関する比較研究」(文鐘聲・太成学院大学人間学部講師)によると、生活習慣病の罹患率、抑うつ、転倒の割合及び「生きがいがない」と答えた人は、日本人より同胞に多いことが判明した。
 また基本的、手段的ADL(Activities of Daily Living=日常生活動作または日常生活活動)、QOL(Quality of Life=生活の質)の各項目において日本人のそれより低かった結果や、日本人よりも罹患率などが高かったにも関わらず、介護保険や福祉、介護サービスの利用状況が相応に高くなかったことが裏付けているように、同胞高齢者の「孤立」「生きがいの喪失」は非常に大きい。

 食文化や生活習慣、言葉を異にする同胞高齢者の多くは日本の施設やサービス提供者にはなじめず、孤立するといった背景がある。

 西東京在住のある高齢同胞は、「居場所がないから(総連組織の顧問を)引退したらすぐうつ病になったり、生きがいもなく死んでしまう」と指摘する。とくに男性高齢者は長寿会などの「場」も敬遠する傾向にあり、「生きがいの喪失」は顕著だ。

 しかし、生きがいや幸福感は物質的な豊かさとは必ずしも直結しない。そのことは、HPI(幸福度指数。英シンクタンクが178の国・地域の平均寿命や生活満足度などで評価)など各種「幸福度ランキング」にも表われており、物質的な豊かさ以上の、たとえば高い厚生水準などが求められている。

 まさに自身の尊厳を守り、高いQOLを実現できる「場」を同胞高齢者は渇望している。

生きがいのある「場」作りを

 前述の林瑛純理事長は生きがいのある「場」を創造するひとつの可能性として、「介護職に定年はない。70歳でもまだまだ『若い世代』。第2、第3の人生にどうだろうか」とアプローチをかける。

 人材を高齢者の中から掘り起こすという考え方はすでにあり、某大手ファストフードチェーンでは高齢者の雇用機会を積極的に増やしている。背景には人件費が割安、忙しい時間帯に対処できるなどがあるが、期待に応えうる潜在力があるのは事実だ。

 「ナビ荒川」では20歳前半から70歳までのヘルパーがおり、それぞれが特性を生かしたサービスを提供している。

 実際に「生涯現役」を自負する78歳の現場責任者もいる。また、趣味が海外旅行という80歳の現役ヘルパーは、「世話を焼くのが好きだから時間を見つけては在宅介護に行っている」と言う。「お姉さんに介護してもらえる」と事業所では人気のヘルパーだ。

 同胞による同胞への介護の過程でも、「生きがいの喪失」を防ぎ、さらなる生きがいある「場」を創造することができるという可能性が少なからずある。

 福祉理念として定着しつつあるノーマライゼーションの考え方は、社会的に不利な立場にいたり、介護を受ける状態であったとしても、誰もが一緒に生活するのが自然だというものである。

 同胞たちが「尊厳を守り」「自分らしく暮らす」ためのパートナーを担う絶好のポジションにいるのはやはり同胞である。(鄭尚丘記者)

[朝鮮新報 2008.2.18]