top_rogo.gif (16396 bytes)

横田めぐみさんの遺骨DNA鑑定問題 経緯と経過 −2−

日本政府 DNA鑑定の問題点

 (1)日本政府はDNA鑑定を実験科学の方法論に従って実験を行い、実験に関する詳細をすべて公開して科学的客観性を明らかにしなければならない。

 国内で行われるさまざまな科学鑑定は、鑑定実験における詳細を記述せず鑑定書だけ付される場合がほとんどであるが、これは鑑定機関と個人あるいは団体との信頼関係の上に成り立っているからである。国際間、とりわけ対立する日朝間においては、実験結果だけを記したDNA鑑定書は、なんら相手を説得させる証拠にはならない。また、一般の鑑定書の場合でも、鑑定方法が客観的に科学的分析方法として確立されている場合に限られる。火葬した遺骨についてのDNA鑑定は、それまで鑑定例もなく、DNAが検出されない可能性がきわめて高い実験であることを考えれば、なおさら実験科学の方法論に従って科学的客観性を明確にしなければならない。

 05年4月15日の衆議院外務委員会における須藤議員の次の発言は、科学的視点に立ったものといえる。

 「科学的検定とはご存知ですか。一人がやっていい結果を出したってだめなんですよ。社会的に認められなければいけない。いろいろな形で、複数の人間が、複数の機関でチェックして初めてそれは科学的検定と認められ、その過程が公開され、社会的に認知されたときに初めて科学的検定になるんですよ。一個人、一機関でやって、しかもその鑑定書も出てこないし、科学的な説明もない。こんなもので科学的検定となって、それに基づいて外交を展開すれば、それはもう極めて日本の外交は危うい橋をわたっていると言わざるをえないじゃないですか」

 具体的に考察すれば以下の点が問題になる。

 @DNA鑑定結果はどのように判断するべきか。

 科学的に正しく鑑定が行われたかどうかは、科学者あるいは科学的方法論を理解できる多くの人に意見を求めて判断すべきであり、政治家が科学的かつ客観的であるかどうかを判断することが誤りであることは明らかである。もちろん政府の中にも科学に携わっている人がいることは事実であるが、政府機関内の一部の人だけの意見で科学的であるということは政治的意図によって意見が歪曲される可能性を孕んでいる。「ネイチャー」は3月17日号で、政治が科学に介入している点を指摘している。実際、日本政府の報道の中で、自分たちに不利になるような事実を、野党やメディアから批判されないで自ら報道したことが一つでもあっただろうか。歴史は、政治家は自国に不利なことはたとえどんなに正しくても報道しないものであることを物語っている。とりわけ日本と共和国のように互いに敵対しあっている国の場合にはなおさらである。遺骨のDNA鑑定は日本と共和国政府の国家の尊厳をかけた重要な問題である。日本政府がDNA鑑定について本当に科学的客観的な見解を求めるならば、日本の政府は少なくとも日本染色体遺伝子検査学会、日本分子生物学会、日本医学会、日本物理学会、日本化学会、などの科学学会、さらに公平には世界中の科学学会にDNA鑑定のデーターを公開して意見を仰ぐべきである。

 A実験データの公開について

 実験データの公開は、科学的客観性を議論するうえでの前提である。日本政府はこれらをいっさい公表していない。もちろん個人情報など限定せざるをえない理由もあるかもしれないが、公開されない情報について科学的に客観的であることをいうことは不可能であることは明らかである。上記に示したように、一般市民には公開できなくても、政治的に中立の立場に立つ多数の科学者に情報を公開してさまざまな科学界の見解を議論し、政治家の立場ではなくて科学者の立場で科学的客観性に対する見解を求めなければならないことは明白である。

 B実験の再現性、追証性について

 日本政府は帝京大学の吉井氏のDNA鑑定を科学的、客観的といっている。しかし、吉井氏自身の実験結果は、骨片5個のうち1回目と2回目のデータが異なっており、他の骨片についてはデータが公開されておらず、「再現性」は確認されていない。また、科学警察研究所、東京歯科大学では遺骨のDNA鑑定ができない状態にあり、このことは追証性が確立できていないことを示している。以上のことから実験における再現性、追証性が確立していない実験結果であり、科学的に客観性がないことは明らかである。吉井氏が鑑定した資料が使い果たされ、吉井氏が用いた試料で再現性や追証性を確かめることは不可能になってしまっているが、他の試料を用いて第三者機関で可能な限り再現性と追証性を確かめることは可能である。したがって、日本政府が科学的にDNA鑑定の客観性を求めるのであれば、政治的に中立な第三者機関に依頼して広汎な鑑定実験の追試験を行うべきである。「ネイチャー」もこの点に言及し、3月17日号で「鑑定はもっと大きなチームでなされるべきだという他の日本人科学者の主張は説得力をもつ。日本はなぜ一科学者だけに鑑定を委ねたのか。そして彼はもはや鑑定について語る自由さえ失っているかに見える」と問題点を指摘している。

 C実験報告者との意見交換について

 「ネイチャー」が4月7日号で、DNA鑑定者の吉井氏は4月から警視庁科学捜査研究所の法医科長に抜擢され、自由に意見交換ができなくなったことを批判した。一方、共同通信は3月26日付で、「警察が外部の人材を管理職として招聘するのは極めて異例」と評した。このように、鑑定者の意見を聞くことができないようでは実験が科学的に行われたということはできないし、日本政府の行為はDNA鑑定の科学性を明らかにすることを政治的に故意に妨害していると理解されても仕方あるまい。

 DDNA鑑定者の見解

 鑑定者である吉井氏は「ネイチャー」2月3日号で、同科学記者の取材に対して、「火葬した標本の鑑定は初めてで、今回の鑑定は断定的なものとは言えない」と説明している。このことは、鑑定者自身が科学的に正しい鑑定であったかどうかを疑っているということである。(熊本県朝鮮会館問題を考える市民の会、永好和夫)

横田めぐみさんの遺骨DNA鑑定問題 経緯と経過 −1−

[朝鮮新報 2007.12.7]