〈日本軍「慰安婦」問題〉 「日本軍の慰安婦制度への関与は明らか」 |
米国議会調査局(CRS)が報告書を配布 米下院に提出された「慰安婦」問題決議案(H.Res.121)が注目されるなか、米国議会調査局(CRS)は日本軍「慰安婦」問題に関する報告書(Japanese Military's "Comfort Women" System)を議員らに配布した。同報告書は昨年9月に公開された報告書の内容を補強、修正したもの。日本国内で「1993年河野談話」を見直す動きがあることを指摘しながら、これまで明らかにされた研究、調査資料を挙げ、日本政府と日本軍の関与について明らかにしている。(取材班) @日本軍の関与と「強制性」 同報告書は「日本政府と軍が慰安婦制度を直接つくったことは明らか」と指摘。「慰安婦」の募集と輸送、「慰安所管理」といった「制度の運営におけるあらゆる段階で日本軍が関与していた」と指摘している。 「慰安婦」の募集の強制性については、「(騙して連れて行くことも強制に含めるなら)ほとんどの慰安婦が強制的に(involuntarily)制度に組み込まれたことは、公になっている証拠から疑いの余地はない」「自発的だったというのはほとんどなかったようだ」と結論付けている。 募集については、ほとんどは民間業者によってだまされたり、家族に圧力をかけられたりしたもので、なかには物理的に拉致されたと主張する人もいると指摘。安倍首相らの議論は、募集だけを強調することで「慰安婦」制度の他の要素に日本軍が深くかかわった事実を矮小化させていると指摘している。 同報告書は証拠資料として、吉見義明氏の研究や田中由紀氏の著書「日本の慰安婦」、被害者の証言を聴取した米戦争情報局、米戦略諜報局の報告(44、45年)、南朝鮮外交通商部(当時、外務部)の報告(92年)、オランダ政府の報告(94年)、「河野談話」につながる日本政府による調査(92、93年)などを挙げている。 A日本のメディアが報じた新証拠、証言 「慰安婦」問題での日本非難が続くなか、日本のメディアも日本軍の関与を示す新しい証拠や証言について報じている。 関東学院大学の林博史教授(現代史)は、東京裁判の際にオランダ、フランス、中国など各国の検察団が提出した証拠資料(東京大学社会科学研究所図書館所蔵)のなかから、日本に侵略、支配されたアジア諸国の女性が日本軍に強制的に「慰安婦」にされたされたことを示す調書を探し出した(朝日新聞4月15日=17日にFCCJで会見発表)。 また、第2次世界大戦当時、日本軍の731部隊で衛生兵として服務したという88歳の日本人男性は、731部隊による人体実験や生体解剖の事実を証言した。そのなかには子持ちの「慰安婦」も含まれていたという(読売新聞4月9日=8日、大阪、シンポで発表)。 さらに、「行政側の強い圧力」を受け1943年にインドネシアで「慰安所」を開業後、オランダ軍による戦犯裁判で強制売春の有罪判決を受け、46年に現地で獄死した日本人男性について、日本の旧厚生省と靖国神社が69年に合祀を決めていたことが発覚している(東京新聞3月29日=28日、国会図書館公表の「新編 靖国神社問題資料集」に明記)。 B日本政府高官の歴史修正 CRSによる同報告書は、日本における「河野談話」改定の動きとして、下村博文官房副長官が「新たな研究」の必要性を主張したこと、「読売新聞」が「慰安婦の強制連行を示す証拠はない」と主張したことを挙げ、「慰安婦」問題に否定的な自民党の中川昭一政調会長や麻生太郎外相らの発言について言及している。また、日本軍の関与と強制性を否定した安倍晋三首相の「慰安婦」問題に関する一連の見解や発言について列挙している。 さらに同報告書は、自民党国会議員らによる「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」(会長、中山成彬元文科相)の設立や、歴史教科書問題にも言及し、日本での歴史修正主義的傾向に注意を喚起している。 日本での「河野談話」改定の動きや政府首脳の「証拠否定発言」に関連して、「慰安婦」問題の立法解決を求める会の土屋公献会長(日本弁護士連合会元会長)は、10日に朝日新聞に掲載された寄稿のなかで、「狭義の強制性はなかった」「事実誤認」といった主張は「根拠は薄弱に見える」とし、「公文書に『強制』が見当たらないから強制の事実はなかったとする断定にも無理がある」と指摘している。 C歴史修正主義批判 安倍、下村両氏は自民党の「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」の事務局長と事務局次長を過去に努めた間柄。「新しい歴史教科書をつくる会」と連携して慰安婦記述削除など歴史教科書修正論議を牽引した。麻生太郎外相は「創氏改名は朝鮮人が望んだ」との妄言で非難を浴び、中川昭一自民党政調会長はNHKの番組制作に介入したことが指摘されている。「歴史修正内閣」という批判も誤りではない。 彼らのつながりは日本会議国会議員懇談会にまで遡ることができる。戦争美化、正当化をうたう「靖国史観」の発信元であり憲法改正、教育基本法改正を訴える右翼団体、日本会議については、「つくる会や救う会の母体だ」という指摘もある。 朝鮮外務省スポークスマンは3日に発表した談話で「安倍政権が厳然たる歴史的事実をわい曲しているのは、何としてでも犯罪的な過去をよみがえらせようとするところにその目的がある」「歴史はわい曲するからといって変わるものではなく、犯罪は否定するからといってうやむやになるのではない」と非難した。 南朝鮮の盧武鉉大統領は雑誌(「Global Asia」、東アジア財団発行)への寄稿で、「過去事に対する反省のない歴史のわい曲は、排他的民族主義と国粋主義をもたらす、国と地域を紛争の渦中においやることになる」としながら、「慰安婦」問題に対する日本の対応や日本政府高官による否定発言を批判。「米国をはじめ国際社会が非難するのは、日本の言行が人類の普遍的価値を否定し未来を暗くするものだからだ」と指摘した。 D決議案をめぐる動き 安倍首相は3日、米国のブッシュ大統領と電話で話し、継続して河野談話を継承していく方針を伝え理解を求めた。安倍首相は26日に訪米し、ブッシュ大統領と首脳会談を行う予定。しかし、「河野談話」の修正を求めている「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」は、首脳会談後に訪米し、「軍による強制性はなかった」と訴え、米下院の「慰安婦」決議案に賛同しないよう米議員らに働きかける方針だ。 一方、南朝鮮の与野党の議員47人は、国家としての謝罪と賠償を求める公開書簡を安倍首相に送った。3月30日付の同書簡は、「安倍首相や日本政府はあいまいな表現で旧日本軍による性奴隷動員の強制性を否定している」と指摘。日本が認めない場合、「慰安婦」の関連当事国による共同調査を行う可能性も示唆した。 米国内では決議案採択に向けた運動が広がっている。「韓国挺身隊問題対策協議会」は、安倍首相の訪米に合わせ、日本政府の謝罪と補償を求める全面広告を米3大日刊紙に載せるため募金を呼びかけている。在米同胞団体や女性人権団体など48団体から成る委員会が募金活動を展開している。また、市民団体や在米同胞大学生らはインターネットなどを通じて決議案支持を幅広く呼びかけている。 同決議案の採択時期について、代表提案者のマイク・ホンダ議員(民主党)や米下院外交委員会アジア太平洋・地球環境小委員会のエニ・ファレオマバエガ委員長(民主党)は、安倍首相訪米後の5月中に採決したいとの考えを示している。 E「アジア女性基金」について CRSによる同報告書は、「アジア女性基金」の設立などで日本政府が謝罪や賠償を行ってきたことについて解説。被害者や関係各国との間にある問題点などについて指摘した。 同基金の理事は英BBCのインタビュー(4月10日)で、「(日本)政府が自らの責任を回避するためにアジア女性基金を利用している」との指摘が設立当初からあったと明らかにし、「(基金が)国家補償でなかったことは事実。日本政府が基金に多額のお金を投じたが、政府が十分に責任を果たしたという印象を与えることはできなかった」と述べた。同基金は3月いっぱいで解散した。 [朝鮮新報 2007.4.17] |