差別の中の差別 マイノリティ女性の実態明らかに |
被差別部落民、在日朝鮮人、アイヌ民族、琉球(沖縄)民族に対する構造的な差別が日本国内で歴史的に存在するなかで、これらの集団に属する女性の多くが複合的な不利益を被っている。マイノリティ女性が直面している現実や課題は、一般的にほとんど認識されておらず、日本の女性政策や人権政策からも抜け落ちてきた。 2日、東京ウィメンズプラザ(東京都渋谷区)で開催された「アイヌ女性・部落女性・在日朝鮮人女性によるアンケート調査報告会」。本報告会を開催するきっかけとなったのは、03年にニューヨークで開かれた国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)だ。女性差別撤廃条約に基づき、批准国の改善状態を審査する委員会で、日本政府は国内におけるマイノリティ女性に関するデータ、統計の収集を求められた。しかし、政府の取り組みはその後も進まず、女性たちは「自分たちが抱える課題の調査を自分たちで始めよう」「勧告を政府に実行させるための資料を提供しよう」と、04年から05年にかけて、それぞれのマイノリティ女性を対象としたアンケート調査を実施した。 818人にアンケート
在日朝鮮人女性の実態調査を行ったのはアプロ女性実態調査プロジェクト。アプロは団体や組織ではないため、特定の組織や団体に頼り、一気に大量の配布、回収を見込むことは避けた。調査は、アプロのメンバー37人のネットワークを生かして、家族、親族、友人、先輩、後輩、職場の同僚、そしてその人たちを通して、その人たちがつながっている女性たちへと配布の輪を広げ、818人に対して行われた。 同プロジェクト・梁優子さんの報告によると、調査の対象者は近畿圏に在住する在日朝鮮人女性に絞った。日本国籍を取得した女性も含んでいる。近畿圏に限定したのは、アプロが大阪を拠点にしていること、近畿圏にはほかの地域に比べて圧倒的多数の在日朝鮮人が在住しているという利点からである。 調査は、A=自身について、B=職業・職場について、C=家庭生活と健康について、D=子どもの教育について、E=チェサ(祭祀)について、F=女性への暴力について、G=地域と社会についての7つの大きな質問別に、150項目にわたって行われた。 働き続ける在日女性 梁さんは、「在日朝鮮人女性が、女性として、マイノリティとして、ホスト社会においても在日朝鮮人社会内部においても、人権を侵害されている事態があることを一般的に承知している」と述べ、今回、質問用紙を配布、回収し、集計したのは、「事実を『数量化』し、在日朝鮮人女性の生きた声を反映するため。在日朝鮮人女性がより良く生きる機会を阻まれている事実が現れたなら、それは取り除かれなくてはならない」と語った。 そして、在日同胞社会において、女性が結婚したかどうか、子どもを産んだかどうか、それは男の子であったかどうか、産んだのであれば何人産んだのかということが常に話題になる、と語り、「そうした中で在日の女性たちは、子どもを産み、育て、食べるために仕事をしてきた。仕事面では国籍条項があるため、男性でも就業困難な場合がある。仕事を休むと食べていけないので働く。調査結果からは、育児休暇を取れている女性は比較的高い年収のごく限られた女性で、圧倒的多数の産休、育休を取れない人が、より過酷な状況に置かれていることがわかった」と指摘した。 調査結果からは、就労の場において在日女性たちが、日本の女性一般に言われる「M字型就労」(日本の女性の就業率を年齢階層別に見た特徴を表した言葉。20歳代前半までは就業率が高く、25〜34歳の結婚、子育て期に退職し、35歳〜50歳代に再び就業率が高くなり、高齢期に向かって下降する。これを折れ線グラフにするとM字型を描くので、こういわれている)に当てはまらず、70歳以上でもずっと働き続けていることなどが明らかになった。 真の女性解放に向けて 報告会では、非識字者も含め、女性が女性差別をどのように表現していいのかは簡単ではなく、全体的に「無回答」という答えが多かったこと、DV(ドメスティック・バイオレンス)については、今まで表に出すことができなかった実態があることなどが明らかになった。 そして、差別されている集団ほど女性差別の現実は厳しいのではないかとの指摘もあり、部落差別や民族差別と女性差別など複合差別の中で、双方への取り組みを進めないと、本当の差別撤廃、女性解放にはならないとそれぞれの報告者が発言した。 発言者たちは、「マイノリティというだけでこの三者を簡単にひとくくりにすることはできない」と指摘しながらも、ゆるやかなネットワークを作り、マジョリティ女性とも協力しあい、運動を強めて行こうと確認し合った。10月には札幌のアイヌ文化交流センターで、第1回「マイノリティ女性のフォーラム」が開催される予定だ。(金潤順記者) [朝鮮新報 2007.3.23] |