〈2007 朝米核問題展望〉 攻防、新たな局面へ−核実験がもたらした波及効果− |
有名無実化した「国際的圧力」の構図 朝米間核問題は、朝鮮の核実験(昨年10月)を機に新たな局面に入った。2007年は、核保有国として向き合うことになった両国関係の行方に注目が集まる年となりそうだ。6者会談の展望を中心に、朝米核問題の現状と今後をテーマ別にまとめた。 金融制裁問題 敵視政策転換の始発点
今年の朝米関係を展望するにあたって前提となるのは、昨年12月に北京で開催された第2段階第5回6者会談の結果だ。13カ月ぶりに開かれた会談では、朝鮮に対する米国の金融制裁解除問題が主な議題として上程された。一方、9.19共同声明(05年)に明示された非核化公約の履行と関連した論議は先送りにされた。 朝鮮は「米国の敵視政策の集中的表現」である金融制裁が解除されないかぎり、共同声明履行に関する論議は行えないという立場を明確にしてきた。 朝米の金融専門家による実務協議では、結論は出なかったが、今月再び協議を行うことで合意した。 過去の6者会談で、朝鮮の一方的な核放棄が合意された事実はない。朝鮮半島核問題は、米国の対朝鮮敵視政策によって発生した。だから、9.19共同声明には、朝米敵対関係の清算と平和共存を通じた核問題の解決という原則が明記されたのだ。 しかし米国は、マカオのバンコデルタアジア銀行の朝鮮の口座を凍結する金融制裁を行い、9.19共同声明を踏みにじった。その結果、朝鮮は核実験という強硬策で対応した。 逆説的だが、朝米対決が極限に達するなかで実施された朝鮮の核実験が、核問題に関する論議を本来の軌道の上に戻したといえよう。 朝鮮は金融制裁の解除を、米国側が敵視政策を関与政策に転換させたことを示すものとして認識している。単に凍結された資金を取り戻すことにのみその目的があるのではない。 朝鮮は元来、国際金融体制に加わり正常な銀行取引を行おうとしたが、米国はそれを妨害してきた。また、国際的な取引通貨であるドルによる送金や信用決済などの正常な金融取引を行えない状況下で現金取引に頼らざるをえず、いわゆる「偽造ドル紙幣」も現金決済の過程で自らの意図とは無関係に紛れ込んだものであると説明した。 金融制裁解除に関する問題は、結局は朝鮮側の国際金融活動への参加に米国側が協力する問題に帰着する。朝鮮の国際金融体制への加入は、両国間の信頼醸成に大きな意味を持つ。 6者会談の展望 対話維持し敵対関係清算 昨年12月の6者会談で朝鮮は、「現段階でわれわれの核兵器に関する問題を論議の対象に含むことはできない」(金桂官外務次官)との立場を表明した。朝鮮の核放棄対米国の敵視政策放棄という等式に基づくなら、これは当然のことだ。 現段階で非核化公約の履行は、現存する核計画放棄に関する問題に限定して論議が可能というのが朝鮮側の立場。朝米間の信頼が醸成されるにしたがって寧辺の核施設の稼動を中断させ、国際原子力機関の査察などを受け入れるというもの。金融制裁解除という「前提条件」もつけた。 朝米双方は金融制裁に関する2者協議を今月再開させるが、この問題の解決なくして第5回6者会談の第3段階は開かれないというのが現在の構図である。 ブッシュ政権はクリントン政権時代の関与政策を否定、前政権と朝鮮との合意も反故にし、朝鮮に対する強硬な圧力政策を一貫してとり続けてきた。しかし現在は、敵視政策を見直し関与政策に転換せざるをえない状況にある。 中間選挙で民主党が勝利。現政権の対朝鮮政策を批判し、関与政策への転換を求めているという国内事情や、優先課題のイランの核問題もある。 また米国にとって対話の中断は、朝鮮の2回目の核実験といった事態を招くおそれがある。6者会談の枠組みが崩壊すれば、残る対話の形として米国はあれほど拒んできた米朝2国間交渉に向き合わざるをえなくなる。6者会談を維持し進展させるには、制裁問題の解決が必須だ。今年は米国にとって大きな決断を要求される年になる。 他の会談参加国も、核保有国・朝鮮との新たな関係定立を目指している。中国をはじめ関係各国は、対話の維持には一致している。会談の成果のためには、朝鮮との関係において現実的な対応をせざるをえないだろう。 朝鮮側のアプローチ 信頼構築を安保論議に先行 朝米核問題に対する朝鮮側の立場は一貫している。 対話による解決を望むが、戦争にも準備できているということだ。何よりもまず米国側の敵視政策の放棄と朝米間の信頼醸成が必要不可欠であるという主張に変わりはない。米国側が朝鮮に対する敵視政策を維持しているかぎり、9.19共同声明に対する背信行為のようなことがまた起こらないともかぎらない。金融制裁解除問題もこのような文脈で理解する必要がある。 先月の6者会談で朝鮮は、米国が金融制裁を解除するかわりに朝鮮の核活動の中断を要求することは道理に合わないと、断固として拒絶を示した。 朝鮮が、米国に要求する敵視政策放棄のロードマップを新たに作成したことは明らかだ。制裁解除問題を安保問題論議に先行させ、これを先決条件とする外交戦術は、核抑止力を持てば「戦争はない」という判断が対米政策の立案に作用したものだろう。 米国はいまだ敵視政策放棄の決断を下していないが、ブッシュ政権が国内外で直面している状況からすれば、何らかの決断が必要なのはまちがいない。 朝鮮側は、朝米敵対関係の清算をもって朝鮮半島非核化を実現する決断をすでに下したものと思われる。米国が制裁を解除し9.19共同声明履行の論議に入る突破口を開くなら、非核化公約実現の第1段階措置に関する合意が早急になされる可能がある。 [朝鮮新報 2007.1.10] |