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〈在日朝鮮学生学術フェスタ 論文賞〉 朝鮮人強制連行(兵庫)に関する資料的研究

「外国人労務者に関する調査(兵庫分)」整理事業をとおして

 日本による朝鮮の植民地支配に対する過去の清算は、戦後60年がたった今でもなされたとはいえない。数多くある問題の内のひとつに、強制連行被害に対する補償がなされていないということがあげられる。

 日中戦争開戦を背景に、1938年4月に国家総動員法、1939年7月に国民徴用令の公布がなされる。そして1940年頃から日本は、国策として朝鮮・中国をはじめとした植民地から労働力を強制的に動員し、彼らを過酷な「労働」に従事させた。しかし、それ以前から安価な労働力として日本企業で働いていた朝鮮人は多数いた。彼らは1910年の「韓国併合」より始まった植民地政策により生活苦に追い込まれて渡日し、悪環境のもとで働かざるをえなくなっていたのだ。つまり強制連行は、1939年以降の国策動員に限定されない植民地支配下全体で起きた被害であった。この強制連行によって亡くなった者は、推定で6〜10万人にのぼるとされている。

 なかでも兵庫県へ強制連行された人たちは、連行初期は鉱山、中小工場から大企業の軍需工場、そして戦争末期には地下工場建設で労働を強いられた。鉱山は北部と中部に、軍需工場は瀬戸内海沿岸の阪神工業地帯と姫路、相生地域に集中していた。連行先が鉱山、軍需工場、港湾荷役・土木建設とすべての分野へ及んでいることは、兵庫県の特徴といえる。

 日本は犠牲者たちに対する身元調査、遺族への死亡通知、遺骨の返還といった加害者として行うべき当然の補償を未だに行っていない。2005年からの犠牲者調査も、表面的で補償への意欲があるようには見えない。犠牲者遺族への聞き取りもなく、政府の所有している強制連行企業名、犠牲者名ともに非公開とし、都道府県の調査にいたっては単に「調査依頼文書」のやりとりを行ったにすぎなかった。

 日本における過去清算のための活動は主に民間レベルで行われてきた。遺骨調査やその身元確認、被害者遺族への補償、そして強制連行の全容解明において必要となるのが、強制連行被害者名簿の整理、分析である。

 朝鮮人強制連行者の名簿は、これまでにいくつか整理、分析、公開されてきた。この名簿整理事業は、日本の朝鮮植民地支配に対する過去清算において、2つの理由から必要とされる。

 ひとつは、強制連行被害者の遺族に対する補償には名簿の公開が不可欠だからである。朝鮮人強制連行真相調査団(調査団)は、収集し続けた朝鮮人強制連行者名簿(41万3407人分)を2003年2月8日から3月4日まで、ソウルで公開した。この時は5日間に740人が訪れ、そのうちの81人の遺族が名簿から親族の名前を探し出すことができた。名簿は同年9月に平壌でも公開され、これを機に「遺族会」が結成された。以降遺族調査が始められ、祐天寺に遺骨があることが判明した遺族も現れた。このような強制連行被害者の遺族に対しての情報提供は、人道的観点から考えて不可欠なものである。

 もう一つは、名簿が強制連行の真相究明への基礎資料となるからである。連行年月日、被害者の本籍地、逃亡率・死亡率等の観点から名簿を分析することは、強制連行の全容解明への一歩となる。

 今回まとめた名簿資料は「朝鮮人労務者に関する調査」の兵庫分で局地的ではあるが、膨大な量のデータが網羅されている。

 今後、私たちは一度本名簿をウェブ上に公開する。一度公開した後、全体にかけての本籍地の里以下の入力、職種の入力と、主要企業以外の企業について、退所時の処遇、厚生年金保険給付済未済、未払い金、適用を入力して本名簿整理事業を完遂する。

 日本にはまだ非公開のままの資料が多くある。死亡者名簿に関して言えば、厚生労働省(前厚生省)が保管していると言われる「埋火葬許認証」には、約4万人もの名簿情報があるとされている。政府が所持している供託名簿や保険名簿、貯金名簿、企業が所持している殉職者名簿や雇用関係名簿、保険関係名簿の公開が求められる。

 また、今回のような労務者に限らずとも、軍人・軍属に関する日本政府作成の名簿も非公開のままである。これらは名簿公開事業において、情報価値が非常に高く貴重なものである。そして何よりも、こういった日本政府と企業の非公開の姿勢は、過去の清算において問われるべきところであるし、その意味でもこれらの名簿を情報公開させることは大変重要な取り組みであると言える。まずは、非公開名簿公開のために共に声を挙げなければならない。

 日本の植民地支配から「解放」されて62年が経った。60年以上もの歳月が経っても、戦後補償問題は解決されず、そのために苦しんでいる人々が数多くいる。あまつさえ、日本の侵略行為を正当化し、強制連行の事実を否定する動きさえある。なによりも60年以上の月日のなかで、在日朝鮮人社会のなかでも着実に世代交代が起こって、自分たちが生まれる以前に起こった事実の捉え方が変わってきているのかもしれない。しかし、私たちはこの問題と向き合っていかないかぎり、私たち自身の権利を守っていくことはできない。

 私たちの権利を守っていくためにも、まずはできることから私たち自身が実践していかなければならない。その実践の一つとして今回のこの「朝鮮人労務者に関する調査(兵庫)」整理、分析事業があるのであって、これが一つの見本となれば幸いである。(神戸大学 農学部4年 李洪潤、経済学部2年 金善基、農学部1年 琴梨世)

[朝鮮新報 2007.12.17]