〈在日朝鮮学生学術フェスタ 論文賞〉 在日同胞青年の中で民族圏を構築、拡大強化するための運動法論 |
アイデンティティの視点から 総連第21回全体大会報告では「同胞訪問運動」が提起され、民団、未組織、帰化した同胞にいたるまで網羅していくということが主課題となった。この点、留学同は以前から日本学校出身者に対してさまざまな形でアプローチを試みており、その活動は非常に特徴的なものである。そこで、留学同の活動と、実際に留学同に加盟している在日朝鮮人青年のアイデンティティを分析することによって、その活動の可能性と限界を明らかにし、それをもとに民族圏拡大のための提言を行いたい。 その方法として、留学同に所属している異なる背景をもつ同胞学生2人にインタビューをし、留学同での活動や運動が彼らのアイデンティティ形成にどのような影響を与えたのかを聞き取ることで運動の有効な点と問題点を読み取ることを試みた。 在日朝鮮人運動団体が、運動において当然必要な要素となる組織の拡大と結束力の強化のための活動を行うとき、その組織の考える民族的アイデンティティを共有する集団が在日朝鮮人社会であるという論理が存在している。つまり、そのようにして決定された民族的アイデンティティのあり方をクリアしたものだけが民族団体の構成員として承認されている。逆に言えばその民族的アイデンティティにそぐわないものは、その運動において周縁化されてしまうのであり、それが在日同胞青年の中で民族圏を構築、拡大強化することへの障害になっているのではないかと考える。 在日朝鮮人運動は、「朝鮮人」であるからという理由で抑圧してくる圧力にたいして、その抵抗の手段として、「民族」の名のもとに団結することによって運動を実践してきたのである。しかし、従来の在日朝鮮人運動は、在日朝鮮人が固有の民族的アイデンティティを有していることをアプリオリに前提とする傾向が強い。 在日朝鮮人運動の目指すものを考えた時に、民族的差別への抵抗というのは間違いなく含まれる。そのための民族的アイデンティティは、実践的場面において必要なものである。しかし同時に、世代交代等の社会状況の変化に伴い、日本籍者や「ダブル」などのそれまで周縁化されてきた存在も看過できないものとなっている。民族圏の構築、拡大強化という目標を掲げるとするならば、多様化するアイデンティティの現状を的確に分析し、個々に対して柔軟に対応していくことが必要であり、そして同時に、運動団体としての機能を生かすためには、運動において必要とされる民族的アイデンティティを同胞青年が自発的に身につけていくことができるという、比較的自由な土壌というものが必要ではないかと考える。 たとえ同胞青年が自ら訪ねてきたとしても、団体の民族的アイデンティティを求めた結果、青年らの「個」が抑圧されては、実質的な民族圏の拡大強化にはつながらない。民族的アイデンティティを求める教養活動とともに、それに参加する青年たちのさまざな「個」のアイデンティティに対する柔軟なケアが必要と考える。その「ケア」の一つの形が「対話」ではないか。 論文で示した例では、教養活動に参加することによって生まれる葛藤とも言うべき彼自身の「考え」は、団体内のほかの構成員との意見交換や対話によって整理され、留学同の民族的アイデンティティを自発的に形成することになった。 ただしもう一つの例に見られるように、「対話」が生まれるためには、同胞青年にとって安心して「個」のアイデンティティから生じる葛藤を語ることのできる「ほかの構成員」がいなくてはならない。そのためには、「ほかの構成員」があらゆる「個」に対して語り返せるような「民族観」を持ち合わせねばならないと思うのである。その「民族観」をもたらすものはまさに教養活動であり、その意味で教養活動と「対話」は相互補完的であり、あらゆる「個」を意識した教養活動(たとえば、もっぱら「被害者側に立つ」朝鮮人を対象に想定するのではなく、「ダブル」の存在も意識した内容の教養活動)を求めていくことも忘れてはならないと考える。 そこで、「個」が語る「自分」というものを資料化し、多くの構成員がそれを共有できるようにする活動をしてみてはどうだろうか。(京都大学法学部2年 朴憲浩、工学部2年 李鎔一) [朝鮮新報 2007.12.12] |